自動車リサイクル制度、20年目の見直しへ|施行状況報告書(案)を読む【第1部・制度の安定化と効率化】

経済産業省と環境省の合同審議会(産業構造審議会・自動車リサイクルワーキンググループ/中央環境審議会・自動車リサイクル専門委員会)が、令和8年6月9日の第66回合同会議で「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」を示した。自動車リサイクル法の施行から20年。前回(令和3年)報告書から5年の節目に行われた今回の評価・検討は、制度を「全体として概ね順調」と総括しつつも、円安下の中古車輸出増や解体業者をめぐる構造変化など、足元で表面化する課題に踏み込んだ。本シリーズでは報告書(案)の内容を3部に分けて読み解く。第1部は、制度全体の評価と、3本柱の一つ「制度の安定化・効率化」を取り上げる。

施行20年──「概ね順調」の裏で進む構造変化

報告書(案)はまず、制度の現状を数字で押さえている。令和6年度末時点の自動車保有台数は約7,859万台と増加傾向にある一方、使用済自動車の発生台数は平成30年度以降毎年減少を続け、令和6年度は約256万台にまで落ち込んだ。新車販売は約458万台と一定規模で推移しているが、中古車輸出は増加傾向にあり、令和6年度は約184万台に達している。自動車の平均使用年数も毎年延び、令和6年度は17年(平成28年度に15年を超えた)。クルマが長く使われ、なおかつ海外へ流れることで、国内で解体・破砕工程に回る車両が細っている構図だ。

リサイクルの「質」自体は高い水準にある。ASR(自動車破砕残さ)の再資源化率は近年95%以上で推移し、令和6年度は約97%(THチーム96.5%、ARTチーム96.8%)。法定目標の70%を大きく上回って安定的に達成している。ただし内訳は熱回収が67.8%、マテリアルリサイクルが28.8%で、最終処分は3.4%(最終処分量14,223トン)。プラスチックのマテリアルリサイクルに限れば約1.5%にとどまり、ここは第2部で扱う「資源循環の高度化」の主戦場となる。

事業者側に目を向けると、電子マニフェスト上で実績のある登録・許可業者は引取業・解体業ともに減少傾向にある。令和6年度の自治体による指導・助言は1,736件で、なかでも解体業者への指導件数が突出して多い状況が続いている。移動報告の遅延も増加傾向で、令和6年度は約27万件、遅延発生率は2.30%となった。鉄スクラップ価格は使用済自動車の価値を左右する重要指標だが、令和8年3月時点でトン当たり49,250円と高値圏にある。

評価の力点は「適正処理」から「国内資源循環」へ

報告書(案)は、制度の政策目的そのものの重心移動を明確に打ち出した。従来は使用済自動車の「適正処理の確保」を基礎としてきたが、近年はリサイクルの高度化による「国内資源循環の推進」が一層重視されるようになっている。循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が国家戦略に位置づけられ、第五次循環型社会形成推進基本計画(令和6年8月閣議決定)や、令和8年4月策定の「循環経済行動計画」で鉄・アルミ・銅・永久磁石を再生材確保の注力資源とするメタルリサイクル推進戦略が示されたことが背景にある。

一方で、制度の安定性を揺るがしかねない状況も「色濃く表面化している」と踏み込んだ。円安を背景とした中古車輸出の増加、国内新車販売の低迷、オートオークション市場の競争激化により、国内で解体・破砕に回る使用済自動車の確保が難しくなっている。加えて、廃車ガラ輸出の増加に伴い、フロン類・エアバッグ類など回収が義務付けられた部品の未回収が疑われる事例や、虚偽報告の可能性を示すデータの傾向も指摘された。解体業者への指導が突出し、新規許可業者に外国籍事業者が増えている点も、許可基準の在り方を問う論点として明示された。これらが、以下に見る「安定化・効率化」の具体策につながっていく。

課題① 中古車・廃車ガラ輸出増と「使用済自動車の奪い合い」

第3章の筆頭に置かれたのが、使用済自動車の減少への対応である。オートオークションの年間出品台数は約750万台、成約台数は約530万台と高水準が続く。解体業者へのアンケートでは、直近10年で85%以上が「調達台数が減った」と回答し、50%以上が「オートオークション経由での調達割合が増えた」と答えた。ところが、解体目的での平均落札率は約2割と低く、調達手段として不安定なのが実情だ。中古車相場の高止まりのなか、解体業者が車両を確保しづらくなっている。

これに対し報告書(案)は、オートオークション会場での「入口策」と「出口策」の両面対応を提起する。入口策は、使用済自動車相当と考えられる車両の取扱い適正化など出品管理の見直しで、使用済自動車判別ガイドライン等と照らした「出品基準の例示づくり」を検討課題とした。出口策は、複数回流札した車両を解体業者へ斡旋する仕組みで、リサイクル料金の負担方法を含め取引円滑化の方策を関係者と引き続き協議するとしている。さらに、平成23年策定の使用済自動車判別ガイドラインや中古車輸出時の通知について、流通実態と諸外国の制度動向(欧州ELV規則案で議論される廃車判断基準など)を踏まえた点検・見直しを令和8年度から開始し、運用徹底を進める方針が示された。

廃車ガラの不適正輸出──「装備変更率が通常の2倍以上」

非認定全部利用による廃車ガラ輸出は急増しており、令和6年度は解体工程からの引き渡しが213,499件と、初めて20万台を超えた。報告書(案)は、輸出向け廃車ガラの一部に、フロン類・エアバッグ類や事前回収物品(廃油・廃液・蛍光灯等)が未回収のまま含まれる法令違反の疑いを指摘。JARS(自動車リサイクルシステム)の登録データでは、非認定全部利用された廃車ガラの装備変更率が通常の約2倍以上と高く、エアバッグ類等を回収せずに虚偽報告が行われている可能性があるとした。

対策の柱は、令和8年1月に稼働した大規模改造後のJARSの新機能活用だ。装備変更率が高い事業者や遅延報告の多い事業者の上位を画面表示できるようになり、自治体の効率的な立入検査が期待される。あわせて、装備変更や事前回収物品の回収を行った事実を確認できる証憑の保存・提示、廃車ガラ輸出時の証明書類提示の徹底などの追加策を令和8年度から検討開始する。さらに、不適正スクラップヤード対策を目的とした廃棄物処理法の改正審議とも連動し、有価物であっても適正な取扱いが必要な金属・プラスチック物品の保管・再生事業に都道府県知事の許可を義務付ける方針が示された。これに伴い、解体業・破砕業の許可業者が使用済自動車由来の物品の保管・再生を行う場合は、許可の「みなし規定」等の措置を講じるとしている。

なお、リサイクル料金の輸出返還制度については、解体業者と輸出業者の競争上の有利・不利をめぐる意見も踏まえつつ、預託制度の法的性格を理由に、制度全般の見直しを検討する際に併せて検討する(15年目見直し時と同じ結論)とした。

課題② 解体業の「資格化」へ──許可基準に知識・技能要件

整備・解体業界にとって最も影響が大きいと見られるのが、解体業の適正化策である。自治体への調査では、解体業者4,067者(令和7年3月末時点)の国籍は全体では日本が約7割を占める一方、新規許可業者では日本以外の外国籍が約7割(66.2%)に達し、外国籍事業者の増加傾向が確認された。JARSの入力や自治体とのやり取りが日本語のみのため、意思疎通が困難というケースが複数の自治体から報告されている。一方で、被指導・助言対象者の国籍は日本56.7%・外国籍43.3%で、指導は国籍にかかわらず行われている実態も示された。

こうした状況を受け、報告書(案)は廃棄物処理法と同様に、自動車リサイクル法の解体事業許可基準として、全ての解体業者を対象に「知識・技能要件」を設けることを打ち出し、令和8年度から準備を開始するとした。あわせて、JARC(自動車リサイクル促進センター)が主体となり、JAERA(日本自動車リサイクル機構)が実施する自動車リサイクル士制度などを参考にした講習会・検定の実施を検討する。実施方法やスケジュール、財源(JARCの指定法人業務との関係を含む)、解体業者への影響や経過措置、自治体との連携に留意しながら具体化を進めるという。解体業の現場に「資格」に近い知識・技能の確認の仕組みが入る可能性があり、業界として動向の注視が求められる。

一方、一部自治体から要望のあった解体作業場への屋根設置義務化や「もぎ取り解体」(許可事業者の責任下で外部の者が部品取りすること)の禁止については、地域により実情が異なるとして、さらなる全国的な実態把握を進めつつ、関係者との丁寧な議論のうえで必要な対応を検討するとした。直ちに義務化へ進む書きぶりではない点も押さえておきたい。

課題③ 不法投棄・被災車両の適正処理と特預金

制度の原点ともいえる不法投棄・不適正保管車両への対応では、残存台数が法施行前と比べて約98%減少した成果を確認。ただし直近数年は全国5,000台程度で横ばいに推移し、毎年数百台程度の新規発生が続いている。50台以上の事案をターゲットに、JARCが自治体と合同で立入検査を行い支援スキームを紹介する取り組みが続けられ、令和7年度は6自治体・372台の削減につながった。

近年は自然災害に伴う被災車両の円滑な処理も重要論点だ。焼損・水没・転落等の被災車両は資源価値が低く、撤去・搬送・処理に重機や財政支援を要する。令和6年の能登半島地震では、環境省・自治体・JARC・関係団体が連携して焼損車の撤去にあたった。手引書・事例集の刷新や説明会の開催も進められている。

これらの財源となる特定再資源化預託金等(特預金)の残高は、令和6年度末で約240億円(利息を含む)。令和6年度からは最終車検日または車検証返付から20年が経過した車両のリサイクル料金が特預金へ転化する仕組みが始まり、足元では一定の増加が見込まれる。もっとも、JARC運営経費への自動車メーカー等の拠出休止、新車時預託の減少、新冷媒(HFO-1234yf)への移行による事故車減少、今後のインフレや次期システム大改造の負担などを考えると、中長期的には残高が減少していく見込みだ。報告書(案)は、増減両面の要因を踏まえて特預金の動向を把握しつつ、その使途を制度全体への影響も含めて総合的に検討する必要があるとした。

整備業界への示唆と、今後のスケジュール

第1部で見た「安定化・効率化」は、解体業・中古部品・輸出に関わる事業者に直接届く内容が多い。とりわけ、解体業許可基準への知識・技能要件の導入準備、使用済自動車判別ガイドラインの見直し、廃車ガラ輸出に関する証憑の徹底は、いずれも令和8年度から動き出す。現場の実務に関わる論点として、早めの情報収集が望ましい。

令和8年度から動き出す主な検討(第1部関連)

  • 解体業許可基準への「知識・技能要件」導入の準備開始(JARC主体の講習・検定の検討を含む)
  • 使用済自動車判別ガイドライン・中古車輸出通知の点検・見直しの開始
  • 廃車ガラの不適正輸出抑止に向けた証憑保存・提示等の追加対策の検討開始

次回の第2部では、もう一つの柱「国内資源循環の推進」を取り上げる。リユース部品の流通促進、再生プラスチックの流通量拡大(資源回収インセンティブ制度、再生プラスチック集約拠点構想、欧州ELV規則案)、ASRリサイクルの高度化と2チーム制をめぐる議論など、整備工場のリユース・リビルト部品活用にも直結するテーマを読み解く。第3部では、EV時代の焦点である車載用蓄電池(LiB)の回収・再資源化、JARS活用、カーボンニュートラル・レアメタルへの対応と、今後の検討スケジュール全体を整理する。

※本記事は、第66回合同会議(令和8年6月9日)に示された「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」に基づく。数値・記述は同報告書(案)による。報告書(案)は今後の手続を経て確定される見込みで、確定版で記載が変わる可能性がある。

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