熊本大学人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長
外川 健一
1.はじめに
年の瀬を間近に控えた2025年12月23日、自動車リサイクル法の5年ごとの見直しを審議する第63回目の産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会 自動車リサイクルWG 中央環境審議会循環型社会部会 自動車リサイクル専門委員会 合同会議(以下合同会議と略する)が東急キャピトルタワー及びウェブのハイブリッド方式で開催された。最近の審議会はウェブ方式も併用され、議事録もすでに公開されている。今回は、ウェブで公開された当日資料3 経産省・環境省「自動車リサイクル制度の個別論点の深掘りについて(制度の安定化・効率化)」および議事録を参照しながら、両省が25年目5回目の見直しの議論をどうまとめようとしているのかをみていこう。なお、25年目5回目の見直しの報告書は3月2日の合同会議で報告、審議される予定である。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/063.html(全体)
2.合同会議で審議される論点を10点から5点に集約
その前に、両省は9月5日の第60回の審議会で以下の10点を論点として絞った見直しを行いたいと発言した。以下それらを確認する。
①使用済自動車にかかわる動向把握 (オートオークション等における解体業者の取引動向含む)
②不適正な解体業者等の実態把握と対応の検討
③ リサイクル料金の適切な運用と検証
④ 不法投棄・不適正保管車両及び被災車両の適正処理
⑤ 情報システムの効率的な活用
⑥ 自動車リサイクルの高度化
⑦ 再生プラスチックの流通量拡大
⑧ リユース可能な部品の流通促進
⑨ 使用済自動車由来の車載用蓄電池の再資源化の推進
⑩ CN・3Rの高度化
そして太字部分の5つのテーマに絞って、今回ご紹介する第63回と、ASR・CNに主たる焦点を当てる第64回(2026年1月13日開催)の合同会議で議論を行うことを提案した。
3.残り5つの論点の深堀りはなぜ避けられたのか?
まず、深堀りするに足る5つの論点であるが、①~④は第60回(9月5日)の合同会議で、日本自動車リサイクル機構から訴えられた事項である。しかし、③の自動車リサイクル料金に関しては、法の根本にかかわる事項であるので、ここでの議論は避けられたようだ。また、④に関しても、①と②に関わる部分が大きいと判断したようだ。そこで、自動車解体業者から緊急性のある課題である①と②をまずは今回の合同会議の主たる議題としたようだ。また第64回で取り上げられた⑨は自動車リサイクルや周辺環境で起こりうる事故の未然防止と安全性確保の上では喫緊の課題であり、⑦は2026年度から開始される予定のスクラップインセンティブシステムを軌道に乗せるための第1の課題であるので、議論したいのは当然であろう。しかし2026年4月に開始するこのインセンティブシステムのために3か月前の2026年1月以降の議論をするというのは、これまでの既定路線に沿って承認してもらうという意味だろう。どちらかと言えば自動車リサイクルのステークホルダーに対する両省からのお知らせであろう。⑥の高度化とは、従来は両省が政策的に推し進めたいことで成果が期待されるもの=高度化であったとすると、両省が今後5年間に行う政策の青写真に関して、合同会議がお墨付きを与えると考える。
⑤が今回の議論から外されたのは、2026年4月から開始される新システムについて、開始前ではなく開始後に意見を求めた方がシステムのさらなる有効活用ができるという期待もあったのか、議論を延期した模様である。私の知り合いの複数の自動車解体業者が12月上旬段階で、リサイクルシステムがどのように変わるのかまだ実際の画面が分からないのが不安だと漏らしていた。にもかかわらず、結局4月の新システムスタート時は一部の解体業者と破砕業者による、廃プラの供給が粛々と始まるのだろう。⑧は経産省のリサイクル部品の規格化の問題が失敗して、その打開策が見いだせない中、この点は忘れていませんというアピールであっただろうから今回の議論は避けたのは理解できる。⑩は両省の目玉政策であるだろうが、この合同会議で議論しないでGXやDX、あるいはカーボン・クレジットの適切な活用に関する検討会にて議論するので、ここでの審議は避けたいというのだろう。自動車リサイクルに特異な論点は定まっていないので、今回の議論からは外されたものと考える
論点②不適正な解体業者等の実態把握と対応の検討について
ここからは、第63回合同会議で議論された論点②「不適正な解体→廃車ガラの不適正な輸出について」を振り返ってみよう。
まずは上記のスライドで、両省は、使用済自動車の引取台数が減少傾向にあることが、大きな課題になっていると指摘し、一方で、中古車に加えて廃車ガラの輸出も増加し、一部には法令違反が疑われるものもあると指摘した。また、外国人事業者の国内市場への参入動向、中古車ないし廃車ガラの輸出動向、法令違反が疑われるような廃車ガラの不適正な輸出の状況、解体業者の主な仕入れ先であるオートオークションの取引実態等について把握・分析をしながら、必要な対策を検討するとしている。とくに自治体の担当官からも、「解体業者の許可基準に知識・技能要件を設ける等の規律強化は、実施する必要があるという指摘があった。さらに自治体の指導監督の面からも、「日本語を理解できる方が事業者内に1人はいるような要件を入れられないか、検討していただきたい」という要望が出された。この指摘に対して、合同会議の委員からも「特に日本語を解する方が事業者の中にいないケースがあるということについては、報告の中で私も知りまして驚きであるというのが感想でございます。」というコメントもあった。
入口のオークションを調査するのもいいが、結局自動車リサイクル法の仕組みを既定路線で考えれば、それは調査に留まろう。今回の法制度の見直しのポイントでは、解体現場の不適正処理をしっかり摘発し、そのような業者は市場から排除できるよう、警察との連携が一番重要であろう。
筆者が注視してきた非認定全部利用(輸出)については、両省は「廃車ガラの輸出」との問題として2025年10月から12月にかけて調査を行っている。それは自動車リサイクル促進センターのJARSシステムに登録されたデータを検証、税関や地方環境事務所による検査状況等のヒアリング調査である。
その結果、輸出向けの廃車ガラの中には、エアバッグ類が未回収であるなど、違反が疑われるものも一部確認されているという。JARSシステムに登録されたデータを検証した結果、非認定全部利用された廃車ガラについては、装備変更率が通常の約2倍以上という高い傾向が判明された。エアバッグ類等の部品取りや中古車としての転用を目的として、エアバッグ類等を回収せずに虚偽の報告が行われていると考えられる。また、税関や地方環境事務所による検査状況等をヒアリングした結果、フロン類やエアバッグ類や事前回収物品が未回収である違反事例が確認された。
メーカー責任のエアバッグ再資源化に関しては、エアバッグ類等の回収の状況を確認していないという回答が約7割あり、特に装備変更率が高い事業者に対しては、立入検査時にエアバッグ類等の回収状況について重点的に確認するよう、周知する必要があるという記載も注目される。
合同会議では自工会から、自再協が某港湾の税関と環境事務所に呼ばれ、コンテナの開梱に立ち会ってきた際のエピソードが報告された。コンテナには、解体車の部品輸出と称して一部の部品が外された車両が入っていた。輸出申請書類ではエアバッグも処理済であったが、偽装された書類も税関に提出されていた。原因として①税関への虚偽の申告②エアバッグの処理義務違反、③移動報告に関しても、解体済ということで破砕業者まで移動報告がなされている虚偽の移動報告ということだと想定された。メーカーとしては、エアバッグ処理済となると、エアバッグのリサイクル料金をこの報告をした解体業者に支払うことになっているので、ユーザーのリサイクル料金の詐取で詐欺罪にも当たるとも指摘した。これは違法業者の現場の実態の氷山の一角かもしれないが、実際に観察された1つのケースであった。今回のケースは、解体業者と輸出業者は別々の会社だったらしいが、実は違法輸出しようとした輸出業者は、現在解体業の許可申請中という状況であった。
こういった違法行為を防止するためにも、盗難車の対策にも通じる税関での自動車部品のコンテナに対するチェックが対応策として提示された。方法論として税関への提出書類の厳格化や、JARSの装備変更事業者と税関との情報連携も考えられる。(メーカーの担当者は「税関の所管は財務省ということで、調整がなかなか難しい面もあるかもしれない」が、ぜひ対応の検討をと対策提起した。
なお、審議会資料3.の12ページに掲載されている廃車ガラの輸出動向に関する実態把握調査では、そこで、フロン類及びエアバッグ類の装備変更率が高い上位30事業者をJARSで抽出し、当該事業者を所管する地方自治体による立入検査の状況を調査したところ、違反事例はほとんど確認されなかったという。このことは、非認定全部利用輸出には、そもそもフォーマルセクターは関与していないということを暗に示唆する内容である。そして、この類の輸出は大規模業者でおこなっているというよりかは、破砕業者や中小の海外市場に詳しい業者が行っているという推測がなされる。さらに、非認定全部利用(輸出)に関しては、プレス処理などの前処理がされてないことが多いかもしれないが、エアバッグ処理(再資源化)は、自動車解体業者の申請主義(性善説に基づくシステム)の現状から考えると、この確認は1つの警告に留まる可能性がある。
4.改めて今回初めて本格的に話題になった非認定全部利用(輸出)の件
以上の政府審議会での議論を、公表資料作成した筆者のデータ整理をもとに再度法施行時からの全部利用の推移を振り返ってみよう。
表1 法施行時から最近5年間の全部利用の推移
資料)合同会議参考資料「自動車リサイクル法の施行状況(各年度)より筆者作成。
表1は法施行時からの全部利用の台数と、その年に発生した使用済台数との比率との比を筆者が計算したものである。全部利用比率の分母は表で計算した分母が使用済自動車発生台数とするのではなく、電子マニュフェストの引渡報告件数とした方が適当かもしれないが、例年この2種の数字はほぼ同じ(2024年度は引取台数:2,560,666、引渡台数:2,726,066で、いずれの場合も大差はない)なので、ここでは使用済自動車発生台数と同じ電子マニュフェストの引取報告件数の方を分母としている。
法施行当初の2005年度はとくにARTが精力的に認定全部利用を採用して、認定全部利用率は10%を超えていたが、翌2006年度から徐々にその割合は低下し、ここ最近は5%強という数字で推移している。一方非認定全部利用は法施行当初の2005年度は155,520台と5.1%の水準であった。この時は解体段階からの比率が0.9%、破砕段階からの比率が4.2%と破砕段階からの台数の方が断然に多かった。これは両チームが整備したASR再資源化施設への引渡が、市場では完全に把握できていなかったものとも考えられる。そして最近は解体台数からの数字が徐々に増加し、2024年度は破砕工程からの台数が4,935台(使用済自動車台数の0.2%)に対し、解体からの台数が213,499台(使用済自動車台数の8.3%)にまで急増した。
合同審議会ではこの数字の増加が、不適切な解体の増加につながっているという懸念を主として問題視した。筆者は2017、18年の中国ショックからこの非認定全部利用を問題視してきたが、その立場は不適正な解体処理と同時に(あるいはそれ以上に)、海外への資源輸出の陰に隠れた廃棄物の輸出を懸念していた。しかし同時に懇意にしている解体業者や破砕業者から、この非認定全部利用による商取引を経済的取引と位置づけ、現地での需要があるから積極的に採用している話も2~3例うかがったのも事実である。なお、合同会議では「廃車ガラ」の輸出増加としているが、ではここでいう不適切な解体とはどのような解体なのか。繰り返しになるが、それは主としてエアバッグ類の処理がされていない使用済自動車の廃車ガラとしての輸出である。つまり合同会議では主としてメーカー責任であるフロン類、エアバッグ類、ASRの再資源化の実態を集中して議論してきたので、この問題への注視が今年にずれ込んだことである。
この問題への関心はリサイクルの国際化の進展が、自動車リサイクルシステムの解体段階においてこれまであまり関心を惹かなかったこともあるが、解体段階のみならず破砕段階でも、外国人業者と思われるいわゆる「ヤード」での不適正処理が問題視されているからでもある。
審議会資料3.の14ページに掲載されている「解体業者実態調査の結果概要①(国内市場への新規参入動向)」では、「解体業者(法人にあっては代表者)の国籍については、全体では日本が約7割を占める一方で、新規許可業者では日本以外の外国籍が約7割を占めており、外国籍の解体業者が増加傾向にある。」と解体の現場では、日本人経営者の撤退と外国人経営者の増加が指摘された。つまり、今回の調査では新規参入業者の国籍が明らかになった点である。自動車中古車輸出市場において主役であるパキスタンが首位にある。アフガニスタンも国籍だけは違うが、プレーヤーや市場は同じようなものと推測される。スリランカ、ロシアは自国内市場向け、中国は部品もあるが、素材面でもありうるという興味深いデータであった。なお、「外国人事業者への利便性向上を図るため、多言語対応や登録確認の機能強化が必要」との指摘も記載されていたが、そこまで外国人業者の日本政府が丁寧に対応する必要があるのかという意見も当然出てくるものと考えられる。
現状として、日本語を話さない事業者でも自動車解体業の許可を取得できるのは、許可を申請する際に行政書士による代行が多いことが考えられる。このため、事業者自身が法令の内容を理解していない状況にもある。
また、合同会議およびその前身である審議会でも「使用済自動車」と「中古車」の区別に関するガイドラインが存在するが、実際の運用上はその区別が困難であり、事業者の主張を頼るしかない状況であると報告された。
以上の事情もあって、日本自動車リサイクル機構は解体業の許可の際は、設備案件や標準作業所だけを審査するのではなく、実際の作業が適正であるかも考慮すべきと提案し、自ら行っている自動車リサイクル士制度等の重要性を指摘した。
指導等の件数の多い5自治体に対するヒアリングの結果である。この5つの自治体がどこであるかはわからない。
許可申請や苦情の寄せられた事業者に対しては、5つの自治体全てが立入検査を実施していた。許可基準に知識・技能要求を追加することについては、全ての自治体が賛成している。合同会議のヒアリングで意見のあった屋根設置の義務化やもぎ取り解体の禁止については、実態を踏まえると様々な御意見が寄せられていたが、前者は基本的に判別が容易であるが、もぎとりが実施されているか否かの判別は難しいことが分かった。
また、中古車と使用済自動車の判別が困難である実例として、2つの写真例が紹介された。
5.改めて審議会が5つの論点に絞ることは妥当か?
この2月、ミラノ・コルティナの冬季五輪が開催されたが、筆者が注目したのはメインスポンサーからトヨタをはじめとする日本企業の顔が消えたことである。11のメインスポンサーのうち、韓国からはサムスンが、そして中国からは3社が顔を連ねた。費用対効果が少ないという日本企業の判断だろうが、これは自動車産業がリーディング産業である日本の停滞の現状を物語っている。
改めて感じるのは日本の経済が長期にわたるデフレからインフレへと状況が変わっていることである。賃金の増加は大手企業の正規労働者に留まっている。そのため多くの日本人は新車など購入できない。新車が売れないゆえに使用済自動車も増えない。自動車の長寿命化も年々進んで、ますます使用済車は発生しない。リサイクルの現場では慢性的な人手不足になっている。しかも若者のクルマ離れは自動車業界を直撃し、解体の現場でも高齢化が見られる。自動車業界そのものが若者に魅力あるものになっているのか、3Kともいわれるリサイクルの現場を誰もが働きやすい「場」となるようにどのような環境整備が必要なのだろうか?実は2026年現在40代から50代前半の世代は、98年から金融危機以降の長い就職氷河期の時代に非正規雇用に甘んじた世代である。労働力人口のうち高齢層に位置するこの世代がいわゆる年金世代に突入するときまでに、現在の経済システム・社会システムを若者から彼らの世代も安心して過ごせるように整えておかないとならない。
現在は「大変な時代の始まり」である。トランプ政権の関税政策と中国レアアース規制は、日本のモノづくり産業をじわじわと追いつめているようにも見える。
改めて本コラム冒頭で紹介した論点を10個に絞る妥当性を考えてみたい。そもそも両省は2005年にスタートされたこのシステムそのものには、まったく手を加えようとしていない。現システムは逆有償を全体としたセーフティネットとしてのシステムであるが、法施行時から逆有償はほぼ解消されている。しかも使用済車は国際商品となり、日本車の需要のある国々の中古パーツの需要に応えるための原材料となっている。エアバッグ類やASR等、逆有償のシステムを前提とした議論よりは、むしろ現行のマーケットから見られる国際化をどのようにとらえるか、廃車ガラは輸出された後、いかにそのガラが処理・再資源化されているのかも議論すべきと考える。そして縮小傾向にある使用済自動車台数を背景として、自動車リサイクル業界の健全な経済活動のために、現在こそどのような市場整備を整えていくのか、適正処理を行う外国人事業者と解体・破砕業者の連携モデルこそを考えていくべきではないだろうか?