山口大学国際総合科学部 教授 阿部新
1.はじめに
周知のとおり、日本の貿易統計で中古車の数量を集計できるようになったのは2001年4月である。それから四半世紀近くが過ぎており、その分の中古車輸出のデータが蓄積している。阿部(2023)においては、この蓄積されたデータを用いて、日本の中古車輸出台数の車種別や仕向地別、平均単価、途上国の割合などの変化を見た。そこでは、仕向地を広く地理圏に分け、ロシア向けの数量が圧倒的だった時代から、ミャンマーを中心としたアジアの台頭、そしてアフリカが最大のシェアとなる一連の仕向地の変化が示されている。
とはいえ、阿部(2023)において示されていないことも多い。日本の中古車輸出市場は、ロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランドを中心に展開されてきたと言ってよいが、それらの関係の変化を十分に捉えているわけではない。また、仕向地の変化は、車種によって異なる可能性があるが、特に貨物車やバスの仕向地は乗用車の陰に隠れてあまり知られていない。さらに、仕向地の変化に伴って送り出す側の地域(港)が変わっているのかもわかっていない。
そのような背景の下、本稿は仕向地を軸に日本の中古車輸出構造の変化を捉えることとする。
2.仕向地別の累積台数
先に示したように、日本の貿易統計で中古車の品目が設定されたのは2001年4月である。それから直近の2025年6月までの24年強の間に累積された中古車輸出台数の合計(以下「累積台数」とも呼ぶ)は、2690万台にもなる。つまり、それだけの潜在的な廃棄物、再生資源が輸出されている。阿部(2023)でも類似した内容が示されたが、このうち、乗用車が2227万台で全体の83%を占める。それ以外は、貨物車が438万台(16%)、バスが25万台(1%)となっている(カッコ内の割合は全体におけるシェア。以下同様)。
乗用車のうち最も多いのが1000cc超1500cc以下のガソリンエンジン車の773万台である。1500cc超2000cc以下や2000cc超3000cc以下のガソリンエンジン車も多く、それぞれが577万台、310万台である。この3品目で乗用車の75%を占めている。これら3品目に続くのがハイブリッド車(ガソリンエンジン)であり、181万台もの輸出がされている。ただし、この実績は2017年からの8年半の実績である。
図1は、2001年4月からの累積台数について数量の多い上位20か国を並べたものである。十分に予想される通り、ロシアが405万台で最も多く、全体の15%を占める。それにアラブ首長国連邦の310万台(12%)、ニュージーランドの245万台(9%)が続き、この3か国で36%のシェアとなっている。それにチリ(158万台、6%)、ケニア(120万台、4%)、南アフリカ(117万台、4%)が続き、上位6か国で全体の半数を超える。図1に示される20か国で80%を超えている。
図1で車種を見ると、ほとんどの仕向地で乗用車の割合が高いが、仕向地によって微妙に異なる。ロシアやニュージーランド、モンゴルなどでは乗用車の割合が90%を超えるが、アラブ首長国連邦、ミャンマー、スリランカ、ウガンダの乗用車の割合はそれぞれ76%、62%、77%、74%であり、若干低い。一方、図1の主要20か国のうち、唯一フィリピンで貨物車の割合が乗用車を上回っており、乗用車の割合が22%、貨物車の割合が77%となっている。
乗用車の2001年4月からの累積台数の順位は、図1から十分に想定できるが、全体の順位とさほど変わらない。ロシア向けは373万台と抜け出ており、中古乗用車全体の17%を占める。次のアラブ首長国連邦とニュージーランドがそれぞれ236万台(11%)、231万台(10%)と同等の水準である。それ以降も全体とあまり変わらないが、ミャンマー(66万台、3%)が全体のものよりも若干順位を落としており、モンゴル(81万台、4%)、タンザニア(70万台、3%)よりも少ない。なお、乗用車について、直近の2024年の順位を見てみると、ロシアが首位である状態は変わらないが、アラブ首長国連邦がロシアに迫り、同等の水準となっている。
図 1 日本の主要仕向地別の中古車輸出台数(2001年4月~2025年6月の合計)
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要仕向地は2001年4月~2025年6月の合計数の上位20か国
図2は、ロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランドの主要3か国の中古車輸出台数の推移を示している。これを見ると、2000年代半ばから後半のロシアの急激な変動が目に留まるが、それ以外でもいくつかの論点はある。まずロシアだが、大きく別けて、(1)2000年代後半、(2)2010年代前半、(3)2020年代前半の3つの山があると言える。その中で、変動の激しかった2009年よりも2015年、2016年のほうが数量的には少ないことや、近年の禁輸措置による影響はまださほど大きくないことなどがわかる。
また、アラブ首長国連邦、ニュージーランドについては、ロシアほどの山は見られない。アラブ首長国連邦は2000年代前半から緩やかに減少傾向であり、2010年前後に10万台を下回る水準となったが、その後増加傾向となり、直近は20万台を超え、過去最多を更新している。ニュージーランドも同じように2000年代前半から緩やかに減少し、2010年前後に6万台程度になってから増加に転じている。その後、2017年頃からアラブ首長国連邦とは対照的に減少傾向となり、直近の2024年は10万台を下回っている。
このように市場をけん引してきたこれら主要3か国の動きはそれぞれである。ロシア、ニュージーランド向けの中古車は自国内で使用されることが想定されるが、自国の産業や環境等の政策がどうだったかである。一方で、アラブ首長国連邦は、再輸出先の産業や環境等の政策に関係し、それらの事情を改めて整理する必要がある。
図 2 ロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランド向けの中古車輸出台数の推移
出典:財務省貿易統計より作成
3.中古貨物車の仕向地の変化
次に貨物車の仕向地の変化に焦点を当てる。上述の通り、中古貨物車輸出台数の2001年からの累計は438万台である。このうち、仕向地別ではアラブ首長国連邦が最も多く、70万台もの輸出がされている(シェアは16%)。それに続くのがフィリピンの56万台(13%)、ミャンマーの40万台(9%)であり、全体および乗用車とは異なった構造となっている。上位3か国で38%のシェアであり、それらにロシア(32万台、7%)、南アフリカ(23万台、5%)を加えた5か国で50%のシェアとなっている。さらに5か国(チリ、ケニア、ウガンダ、ニュージーランド、スリランカ)を加えた10か国で全体の67%になる。
図3は2001年から2024年までの中古貨物車の輸出台数の推移を主要仕向地別に示したものである。よく知られているように、2024年の中古車輸出台数(バス、乗用車、貨物車の合計)は過去最多を記録したが、貨物車単体ではそうでもない。最も多い年は2006年の24万台であり、その後は2008年(24万台)、2017年(23万台)の順で多いが、直近の2024年は20万台であり、過去24年間のうち10番目の水準である。図を見ても増加傾向とも減少傾向とも言えない状況であることがわかる。
また、仕向地別にみると国によって短期的な変動が観察される。ロシア向けは2006年に5万台を超える規模の輸出がされていたが、2009年に大幅に減少し、それ以降は1万台を下回る水準で横ばいとなっている(直近の2024年は禁輸措置のため実績ゼロ)。ミャンマーも同様に、2013年から2016年に5万台を超える規模の輸出がされていたが、その後は減少し、2020年からは1万台を下回っている。最大の仕向地のアラブ首長国連邦は、ロシアやミャンマーほどの変動ではないが、2006年の4.7万台が最も多く、20年のスパンで考えると減少傾向にある。これに対してフィリピンは、2000年代前半に1万台前後だったが、2015年には3万台を超え、アラブ首長国連邦を上回る水準になっている。アラブ首長国連邦が首位だったのは2011年までであり(2006年、2008年はロシアが首位)、2012年から2017年はミャンマー、2018年以降はフィリピンが中古貨物車の最大の仕向地となっている。
直近の2024年は、フィリピン、アラブ首長国連邦の順で多く、それぞれ15%、13%のシェアである。それに続くのがナイジェリア、タイ、ミャンマーであり、そのシェアは8%、6%、5%である。ナイジェリア、タイは図3に示される主要10か国には含まれない。
ナイジェリア向けの中古貨物車は、2012年までは年間千台を下回る水準で、短期間で伸びている。2013年に千台、2018年に4千台、2021年に1万台を超え、2024年は1.6万台である。その大多数が車両総重量5トン以下で排気量2000cc以下のガソリンエンジン車(統計品目番号:870431915)であり、2024年のこの品目の割合は同国向け中古貨物車の99%である。2001年からの累積台数で見ても95%がこの品目であり、乗用車を含めてもこの品目が最大となっている。同国向けの2番目に多い品目は660cc以下の乗用車(ガソリンエンジン)、いわゆる軽自動車である。5トン以下2000cc以下の貨物車も軽自動車の可能性はなくはない。
なお、全仕向地においても、5トン以下2000cc以下のガソリンエンジン車(統計品目番号:870431915)が貨物車では最も多い。この品目は2001年からの累積台数で貨物車の37%を占め、2024年では49%にもなる。2005年に20%前後、2010年に30%前後だったため、構造が変わってきている可能性はある。国内の登録台数や販売台数などで市場の構造を見ておく必要がある。
図 3 日本の中古貨物車輸出台数の推移(主要仕向地別)
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要仕向地は2001年4月~2025年6月の合計数の上位10か国
4.中古バスの仕向地の変化
次に、数量的には少ないことから、これまで十分に見てこなかった中古バスについて見ていく。日本の貿易統計では、中古バスを示す統計品目番号は5品目に設定されている。そのうち、2001年4月に設定された時点ではディーゼルエンジン車とその他(ガソリンエンジン車等)の2品目であった。2017年にハイブリッド車や電気自動車といった電動車の3品目が追加され、5品目となっているが、圧倒的にもともとの2品目の割合が高い。
これまでと同じように2001年から2025年6月までの累積台数を見ると、中古バス全体の25万台のうち、ディーゼルエンジンの中古バスが19万台で77%を占める。その次がその他(ガソリンエンジン等)の中古バスであり、5.7万台(23%)である。そして、残りが電動車の中古バスであるが、8年半の輸出実績の合計は200台もない。
中古バスの主要仕向地は、貨物車と同様に中古車全体の主要仕向地の順位とは若干異なっている。具体的に、2001年4月からの累積台数では、アラブ首長国連邦(4.2万台、17%)が最も多く、タンザニア(3.1万台、12%)、ニュージーランド(2.0万台、8%)、南アフリカ(1.9万台、8%)、パキスタン(1.5万台、6%)の順で多い。これら上位5か国で中古バスの合計(25万台)の51%を占める。それにミャンマー(6%)、モザンビーク(4%)、チリ(3%)、オーストラリア(3%)、ザンビア(3%)を含めた上位10か国で69%になる。なお、ディーゼルエンジン車に限定すると、アラブ首長国連邦、タンザニアの次に南アフリカが多い。一方で、その他(ガソリンエンジン車等)に限定すると、パキスタン、ニュージーランドの順で多いという特徴もある。
図4は、累積台数の上位10か国を主要仕向地として、中古バスの輸出台数の推移を見たものである。まず、全体では貨物車と同様に増加傾向にはなっておらず、ここ10年ほどは年間1万台から1.2万台の間で推移している。最も多かったのが2018年であり、2019年、2021年、2017年がこれに続いている。直近の2024年は過去13番目であり、過去最多となった中古車輸出台数の全体とは異なっている。
また、図4を見ると、10年以上も前からアラブ首長国連邦は最大の仕向地ではないこともわかる。同国向けは2000年代前半に4千台を超えていたが、それをピークに減少傾向となり、2010年代後半から千台を割るようになっている。アラブ首長国連邦が中古バスの最大の仕向地だったのは2013年までであり、それ以降は他国にその座を譲っている。近年はやや増加傾向だが、それでも千台は下回っている。
その分を補うかのように増加したのがタンザニアである。2000年代は100台前後だったが、その後増加し、2021年には3千台を超えている。この結果、2017年以降はタンザニアが最大の仕向地である。さらに2019年からタンザニアのシェアは20%を超えており、2021年は28%にもなっている。なお、図でも大方わかるが、アラブ首長国連邦とタンザニアが入れ替わる過程の2014年から2016年まではミャンマーが最大である。その他、ニュージーランドが2010年前後に一時的に縮小した後に回復していることや、南アフリカが2000年末から減少していること、ミャンマーが2019年頃からほぼなくなったことなども観察される。
図 4 日本の中古バス輸出台数の推移(主要仕向地別)
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要仕向地は2001年4月~2025年6月の合計数の上位10か国
上記のように、中古バスの構造はアラブ首長国連邦からタンザニアへシフトする様子が窺える。もともとアラブ首長国連邦から再輸出されていたものが、直接タンザニアに輸出されるようになったということだろうか。あるいはアラブ首長国連邦を拠点とした再輸出の市場がタンザニアに移ったという見方もできる。一方で、両国の市場は異なり、単純にタンザニアの需要と購買力が上がったことで、アラブ首長国連邦の数量が減少したということもあるだろう。いずれにしろ、アラブ首長国連邦に輸出されていたものが、タンザニアに来ているかどうかである。
先に示したように、中古バスの輸出について品目別ではディーゼルエンジン車が多い。図5はこの品目について主要仕向地の平均単価(金額を台数で割ったもの)の推移を示す。これを見ると、ニュージーランドと比べて、タンザニアと南アフリカが重なるように推移している(2001年は数量が少ないため、イレギュラーであると考えられる)。アラブ首長国連邦はそれらより若干低いが、タンザニア、南アフリカと連動している。つまり、アラブ首長国連邦向けの平均単価がタンザニア向けよりも「若干低い」という状態が続いている。これは偶然なのだろうか。なお、図を見やすくするため、ミャンマーは削除したが、ミャンマーもニュージーランドと同様にタンザニア、南アフリカ、アラブ首長国連邦とは全く異なる動きだった。
仮にアラブ首長国連邦に輸出されていたものが、タンザニアに輸出されるようになったとする。アラブ首長国連邦経由でタンザニアに流れていたのであれば、直接輸出によって再輸出に関わるコストは節約できるため、タンザニアの価格が下がる可能性はある。また、アラブ首長国連邦を拠点とした再輸出がタンザニアに移ったのであれば、アラブ首長国連邦の価格に近付きそうにも思えるが、それ以上にアラブ首長国連邦の価格が下がったということなのだろうか。この点の解明はもう少し丁寧な議論が必要だろう。尤も、アラブ首長国連邦向けはタンザニアに再輸出されるものばかりではない。他の再輸出先の単価が低ければ、その分、アラブ首長国連邦向けの単価の平均は低くなる。その他、運送費や人件費などに関わる規模の経済なども関係するだろう。
図 5 主要仕向地の輸出中古バス(ディーゼルエンジン)の平均単価の推移(単位:千円)
出典:財務省貿易統計より作成
注:平均単価は金額を台数で割ったもの
5.税関別の構造の変化
前述したように仕向地別でみると、過去24年もの間に大きな変動があることがわかる。かつて2009年のロシア向けの急減により、富山県などに立地していた中古車販売店が打撃を受けたことが報道された。仕向地の構造が変わる中で、地域の構造の変化も気になるところである。
繰り返しになるが、2001年4月から2025年6月までの24年余りの間に日本から輸出された中古車は2690万台である。図6はこれを主要税関別に示したものである。これによると、横浜と名古屋がそれぞれ522万台、516万台と拮抗しており、ともに19%のシェアとなっている。それに川﨑(311万台、12%)、堺(307万台、11%)、神戸(278万台、10%)を含めた上位5か所で72%にもなっている。さらに博多(126万台、5%)、木更津(100万台、4%)を含めた上位7か所で80%超である。なお、2024年の実績では、横浜(22%)、名古屋(21%)、堺(10%)、神戸(9%)、木更津(7%)の順で多い。
図6ではロシア、アラブ首長国連邦、ニュージーランド向けを分けて示している。これまでも知られていたが、特徴的なのはロシア向けの割合の高い税関の存在であろう。図に示されるところでは、富山(100%)、伏木(98%)、新潟(84%)、舞鶴(96%)、小樽(99%)浜田(99%)といった主として日本海側の税関がこれに該当する(カッコ内は各税関の2001年からの累積台数におけるロシア向けの割合)。図に示される以外では、福井(100%)、伊万里(96%)、石巻(100%)、七尾(94%)、唐津(100%)、境(79%)、小名浜(96%)金沢(98%)、直江津(96%)、柏崎(100%)などがある。量的にも、富山、伏木、舞鶴、新潟、神戸の順で多く、横浜や名古屋はそれぞれ7番目、10番目に位置する。
これに対して、アラブ首長国連邦やニュージーランドについては、ロシアほどに割合が高い税関はあまり見当たらない。図の中でアラブ首長国連邦の割合が高いのは博多(28%)、千葉(23%)、苫小牧(46%)、東京(23%)などである(カッコ内は各税関の2001年からの累積台数におけるアラブ首長国連邦向けの割合)。これに対して量的には名古屋、横浜、神戸、博多、川崎といった図中の上位国が多い。なお、直近10年(2015年~2024年)の合計でも、博多(30%)、千葉(38%)、苫小牧(44%)、仙台塩釜(46%)あたりが高いが、ロシア向けほどではない。
ニュージーランドについても同様で、図中では堺(23%)、木更津(18%)、千葉(26%)が比較的高いがロシア向けほどではない(カッコ内は各税関の2001年からの累積台数におけるニュージーランド向けの割合)。量的には、堺が最も多く、それに名古屋、横浜が続く構造となっている。これは直近10年(2015年~2024年)で見ても同様である。なお、図にあるような主要税関以外では、四日市においてニュージーランドの割合が高く、2001年からの合計で72%、直近10年間の合計で73%がニュージーランド向けである。四日市からの輸出は2015年までは年間10台前後だったが、2016年から年間5千台前後で推移している。
図 6 日本の主要税関別の中古車輸出台数(2001年4月~2025年6月の合計)
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要税関は2001年4月~2025年6月の合計数の上位20か所
図7は図6で示した上位7税関の中古車輸出台数の推移を示す。まず、驚くのが累積台数で拮抗していた横浜と名古屋が各年においても競うように連動して推移していることである。横浜は2004年から2010年まで名古屋を上回っていたが、2011年からは名古屋が常に横浜の一歩先を行く水準(1万台から2万台程度)で推移していた。2024年に両者ともに過去最多を更新する中で、横浜が久しぶりに名古屋を上回っている。図にはないが2025年も半期を経過して横浜がリードしている。
この2か所の「競い合い」の中、他の税関はまた異なった動きを示している。累積台数で3位だった川崎は近年、低迷している。ピークは2014年の16.5万台であり、直近の2024年は11万台になっている。この結果、2024年の税関別では7番目に位置する。また、累積台数が4位の堺も2010年代前半で10万台から15万台に増加したが、2010年代半ばから横ばいとなっている。2024年の堺のシェアは3位だが、横浜、名古屋との差は拡大し、それらの半分にも満たない水準である。これについては神戸も同様である。
一方、上記と比べると博多と木更津は増加傾向にある。木更津は2000年代前半にほぼ実績ゼロの状態が続き、2000年代後半もせいぜい5千台前後だった。2012年にようやく1万台を超えた後は、急速に台数を伸ばし、2021年に11万台にもなっている。博多は2004年1万台に達した後、緩やかに増加し、2024年に初めて10万台を超えている。このように税関によって異なった動きを示しており、それぞれの事情を見ていく必要がある。
図 7 主要税関別の中古車輸出台数の推移
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要税関は2001年4月~2025年6月の合計数の上位7か所
最後にロシア向けについて確認しておく。2001年からの累積台数では、富山、伏木が多く、それぞれ21%、20%のシェアである。それに舞鶴(8%)、新潟(7%)、神戸(5%)、小樽(5%)、横浜(4%)、木更津(4%)、堺(3%)、名古屋(3%)が続き、これら10か所で80%程度を占めている。図8は、このうち5か所のロシア向けの台数の推移を示したものである。木更津を含めたのは2024年に最多となったからである。
先に第2節においてロシア向けには大きく3つの山があることを言及した。その山に照らし合わせると、まず(1)2000年代後半の山では、特に伏木の減少幅が大きかったことがわかる。また、新潟はこの減少以降、2010年にわずかに回復したものの、その後は次の山に関係なく、下降の一途をたどり、ほとんど実績がなくなっている。次に、(2)2010年代前半の山を見ると、同じく相応に減少していることがわかるが、今度は伏木よりも富山の減少幅が大きかった。さらに、 (3)2020年代前半の山では、交代するかのように今度は富山よりも伏木のほうの減少幅が大きいこともわかる。
第2節では、「近年の禁輸措置による影響はまださほど大きくない」と言及したが、税関別にみるとそうでもない。伏木の2022年は7.7万台であり、それが2024年に4.4万台弱になっている。その分、木更津が増加し、2024年にロシア向けの最多の税関となっている。その結果、ロシア向け全体では「禁輸措置による影響はまださほど大きくない」ということになった。日本全体では影響が少なかったわけだが、地域によっては影響があったはずである。それを考慮した議論が求められる。
図 8 ロシア向け中古車輸出台数の推移(主要税関別)
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要税関は2001年4月~2025年6月のロシア向け合計数の上位4か所に2024年首位の木更津を加えたもの
6.まとめ
輸出される中古車は潜在的な廃棄物であるだけでなく、潜在的な再生資源でもある。それらがどこにどれだけ国外に出て行っているか、今後どうなっていくのかを把握するために中古車輸出市場の構造を正確に捉える必要がある。しかし、本稿で見たようにその構造は仕向地の政策や経済状況によって変化していく。本稿ではその構造を捉える作業を行い、その限りでもこれまで知られなかった新たな事情を示すことができた。細分化をすればするほど、新たな事情が見えてくることを実感したが、一方でまだ議論としては粗い印象を持つ。今後、焦点をさらに絞りつつ、より一層の丁寧な整理が求められる。
参考文献
阿部新(2023)「日本の中古車輸出市場の構造とその変化」『速報自動車リサイクル』(105), 50-62