第134回 電気自動車の貿易構造について

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

はじめに

世界で電気自動車(Battery EV)の販売が広がっている。日本経済新聞は、2022年4月12日付記事において、調査会社マークラインズのデータから、2021年の世界の電気自動車の新車販売台数を約460万台であるとする。それは2020年の2.2倍の台数であり、ハイブリッド車(前年比33%増)と比べ、急激に増加しているとする。また、ハイブリッド車の新車販売台数は約310万台であり、初めて電気自動車がハイブリッド車を上回ったとも述べる。

同記事によると、このうち中国が世界の新車販売台数の増加をけん引したとする。そして、中国汽車工業協会のデータから、2021年の電気自動車の新車販売は前年比2.6倍の291万台だったとする。また、ドイツも2021年の電気自動車の新車販売は約34万台であり、前年の1.8倍になったとする。

同じく日本経済新聞の2022年5月23日付記事でも、国際エネルギー機関(IEA)が、2021年に世界で販売された電気自動車とプラグインハイブリッド車の合計が20年比2.2倍の660万台となったと発表したとする。同様に、中国での販売は前年比3倍弱の330万台と急伸したと言及する。このうち、電気自動車だけで270万台超を売り上げたとする。

このような電気自動車の増加傾向は、輸出にも当てはまる。日本経済新聞2022年3月8日付記事では、中国税関総署のデータから、2021年の電気自動車(乗用車)の輸出台数は前年比約3倍の2.6倍の49万9573台であり、ドイツやアメリカを上回り世界最大となったとする。また、ドイツは前年比2倍の約23万台、アメリカは3割減の約11万台、日本は24%増の2万7400台であり、中国が2位のドイツ以下を大きく引き離したと述べている。

東洋経済オンラインの2022年1月24日付記事においても、2021年の中国の自動車輸出の急増をけん引するのは電気自動車を中心とする新エネルギー車であるとし、その輸出台数は前年の4倍の31万台であるとする。そして、ベルギー、バングラデシュ、イギリス、インド、タイなどの輸出先を示し、欧州の比率が高いのは注目に値すると述べている。

筆者は、これまで貿易統計を用いて世界の中古車貿易の構造を解明してきた(阿部,2022b;2022cなど)。電気自動車については、阿部(2020b)において、ハイブリッド車とともに、日本、韓国、EU、アメリカの貿易統計からそれらの輸出台数を概観した。それは2017年、2018年、2019年(一部)の数量であるため、その後、大きく増加していると考えられるが、どの程度かを確認すべきである。また、上記の通り、中国は電気自動車の最大の輸出国となっているとされるが、阿部(2020b)においては、中国の電気自動車の輸出台数を示さなかった。それも含めて貿易構造を確認しておく必要がある。

本稿では、主として国連の貿易統計のデータベース(UN Comtrade)を用いて、世界の電気自動車の輸出台数を集計する。これは、新車、中古車の区分のない数量である。また、これを補う形で、個別国(日本、韓国、EU、イギリス、中国)の貿易統計の数値を対比し、データでどこまで貿易構造を把握することができるのかを示す。

 

UN Comtradeから見る世界の輸出台数

貿易統計は品目番号からその数量を算出する。電気自動車の場合は、バス、乗用車についてハイブリッド車等と同じく2017年より世界共通の品目番号(HSコード:870380)が設定されている。そのため、数量は2017年以降のものを示すことができる。

国連の貿易統計のデータベース(UN Comtrade)は、各国の貿易統計において報告された輸出入データを統合したものである。これを用いて、世界各国からの乗用車の電気自動車の輸出台数を集計することができる。ただし、このデータベースでは、6桁のHSコード(870380)から数量を集計するため、さらなる統計細分を要する新車と中古車の区分はできない。

まず、どの国からどれだけ電気自動車が輸出されているかを見る。データベースにおいては、報告国(Reporter)と相手国(Partner)を設定し、報告国の輸出台数を示すことになる。データベースの操作上の制約から、報告国=全ての国(All)、相手国=全ての国(All)という設定はできないため、報告国=全ての国(All)、相手国=全輸出先の合計(World)を選択し、データを集計する。この結果、2017年から2021年の5年間の世界の電気自動車の輸出台数の合計は388万台であること、2021年の世界からの電気自動車の合計は153万台であり、前年(95万台)の1.6倍になっていることがわかった。

ただし、この設定では、主要輸出国と思われるが、輸出実績のない国が見られる。具体的には、韓国(2017年、2021年)、スペイン(2018年、2021年)、フランス(2017年)、イギリス(2017年、2019年)などで輸出実績がない。これに対して、同じくUN Comtradeにおいて電気自動車の輸出数量を重量(kg)ベースで算出してみると、いくつかの国で相応の実績があることがわかる。つまり、輸出はされたものの、統計に台数が計上されていない。これを考えると、実際の輸出台数は、上記よりも多いと考えられる。

そこで、データベースの設定において、2017年から2021年まで電気自動車の輸出台数、重量、金額のいずれかの実績のある87か国を特定の国として、報告国=特定の国、相手国=全ての国(All)を選択し、1国ずつ輸出台数を算出してみる。その結果、イギリスの2017年、2019年、スペインの2018年、2021年のように、いくつかの国で台数が計上されていることがわかった。しかし、韓国の2017年と2021年、フランスの2017年のように依然として輸出実績がないところもあった。

この設定に基づいて2017年から2021年までの5年間の世界全体の輸出台数の合計を算出すると400万台になる。時系列的に見ると、2017年が16万台程度であったものが、2018年、2019年は45万台(前年比286%)、84万台(前年比188%)と大きく増加している。2020年は95万台であり、前年比は113%とやや伸びは鈍化しているが、2021年は161万台(前年比169%)となり、5年間で10倍もの市場規模が拡大している。

図1は、この5年間の合計について主要輸出国別に示したものである。これによると、5年間の合計で中国が93万台で最も多く、全体の23%を占める。中国に続くのが、ドイツ(70万台、17%)、アメリカ(57万台、14%)であり、これら3か国で55%を占める。さらにベルギー(25万台、6%)、フランス(24万台、6%)、韓国(23万台、6%)が同等の水準で並んでいる。上位5か国、10か国、15か国で全体の67%(269万台)、89%(355万台)、98%(394万台)の数量を占める。日本は5年間の合計で11万台であり、世界では11番目に位置する。なお、EU27か国を1つの国と考えれば、EU域外向けの輸出は72万台であり、中国よりも市場は小さい。

2021年については、中国(50万台、31%)、ドイツ(32万台、20%)が多いのは変わらないが、この2か国のシェアは5年間の合計のシェアよりも高くなっている。また、3位に位置するのがベルギー(13万台、8%)であり、アメリカ(11万台、7%)は4位である。5位がスロバキア(10万台、6%)となっている点も5年間の合計(図1)とは異なる。中国とアメリカの数値は、先に示した日本経済新聞の2022年3月8日付記事中の数値と同等であるが、ドイツ、日本は記事中の数値よりも多いこともわかる。

時系列的には、中国は2020年の輸出実績は5万台弱であり、前年の24万台と比べると大幅に減少した。しかし、2021年は50万台となっており、前年比で1085%にもなっている。ドイツほか、他国も軒並み2021年が過去最高の輸出台数である。ただし、全ての国が増加傾向ではない。アメリカは2019年をピークに減少傾向にある。図ではわかりにくいが、オーストリア、オランダもそれぞれ減少傾向である。

韓国の2021年は台数、重量、金額の全てでデータがないが、輸出実績がないとは考えにくく、別途検討する必要がある。これら数値が抜けている国、年については、各国の統計を用い、丁寧に確認をしていけばよい。これら以外にもEU域内の移動のように、国境を越えたとしても貿易統計に計上されないことがある(阿部,2022b)。また、統計そのものの数値が誤っている可能性もなくはない。これらがあると、正確な規模の算出においてハードルが高くなるが、統計の精度が懸念される国は限られるため、それを前提としてある程度の規模を掴むことはできる。

なお、図1は乗用車のみだが、貿易統計ではバスの電気自動車の数量も算出することができる。同じくUN Comtradeで算出すると、バスの電気自動車の輸出台数は5年間の合計で2万台程度である。このうち中国が44%と半数近くを占め、アメリカ(23%)、ベルギー(6%)、カナダ(5%)、ベラルーシ(3%)、トルコ(2%)が続く。

図 1 世界の電気自動車の輸出台数(主要輸出国別、単位:台)

出所:UN Comtradeより筆者集計

注:2017年~2021年の合計の多い上位20か国を並べたもの

 

個別の貿易統計による修正

前節のUN Comtradeの数量から、いくつかの主要国で輸出実績が記録されていない年があることがわかった。そこで、EU諸国(イギリスを除く27か国)の台数をEU統計局(Eurostat)の貿易統計で個別に見てみると、UN Comtradeで示されていなかった2017年のフランスの輸出台数などが示されていた。

また、それらの作業をしている中で、Eurostatの貿易統計の数値は、上記のUN Comtradeのものと異なっていることがわかった。UN Comtradeは各国の貿易統計を集めたデータベースであることから、EUの貿易統計と数値は一致するという認識だったが、今回確認した限り、その認識は誤っていた。

図2は同じ2017年から2021年までの5年間のEU各国からの電気自動車の輸出台数である。Eurostatから算出したものとUN Comtradeから算出したものを並べている。ドイツからの輸出台数について、Eurostat とUN Comtradeの数量は同水準の70万台であり、差は5千台弱とわずかである。これに対して、ベルギーは29万台もの差がある。他の国もフランス、オランダ、スロベニア、オーストリアなども誤差とは言い難い水準で差がある。また、Eurostatのほうが多いというわけではなく、スロバキアやオーストリアのようにUN Comtradeのほうが多いところもある。

EU27か国分の輸出台数を単純に足し合わせると、その5年間の合計は、UN Comtradeで197万台であるのに対し、Eurostatでは240万台であり、43万台もの差が生じている。2021年だけで見ても、UN Comtradeの89万台に対し、Eurostatは106万台と17万台もの差が生じている1)

問題は、この差に何らかの法則性があるかどうかである。まず、UN Comtradeのほうで筆者のダウンロードミスや集計ミスがないかを確認した。その際に、日本の貿易統計を別途集計し、電気自動車の輸出台数を出してみた。そうすると、日本の数値はUN Comtradeと完全に一致した。日本と同じ設定でUN Comtradeのデータをダウンロードし、集計したため、それらのミスにより差が生じたわけではないといえる。

UN Comtradeでは6桁のHSコードを用いており、電気自動車の場合は870380になる。これに対してEurostatでは、6桁(870380)の品目を細分化し、新車(87038010)と中古車(87038090)の2品目に分けている。図2のEurostatの数値は、この2品目の輸出台数の合計値を示している。

これに関連して、貿易統計の有料データサービスのGlobal Trade Atlasにおいて、EU各国の電気自動車の輸出台数を確認したところ、Global Trade AtlasのデータはEurostatのデータと一致することがわかった。この事情はドイツのみならず、ベルギー、フランス、オランダ、オーストリア、デンマークでも確認できた。よって、Eurostatのダウンロード、集計ミスでもない。Global Trade Atlasでは、6桁コード(870380)の台数も示されていたが、この数値は8桁コード(87038010, 87038090)の台数の合計である。重量(kg)においても同様であったため、Global Trade Atlas はUN Comtradeではなく、Eurostatの数値に依拠していることがわかる。

一方、ベルギーからの輸出台数をEU諸国向けと非EU諸国向けに分けて、UN ComtradeとEurostatの数値を比べてみると、ベルギーから非EU諸国への各年の輸出台数は完全に一致するか、またはそれに近い数値ということがわかった。これに対して、EU諸国向けの輸出台数は依然としてUN ComtradeとEurostatで大きく差がある。

このベルギーからEU域内向けの輸出台数に差が生じている理由がわからない。また、この法則性はベルギーにあてはまり、ベルギー以外ではそうでもない。フランスを見ると、2017年の数値を修正するなどでEU域外の全体の輸出台数の差を縮小できたが、個別国向けの各年の数値を見ると完全に一致しない年が多い。そのため、今回は違いの法則性が見えてこなかった。貿易統計はしばしばデータが更新され、数値が変わることがある。初期に報告された数値がUN Comtradeに残っていたことで更新された数値と乖離したことなどがあるのかもしれない。いずれにしろ、EUについてはこれまで指摘したように(阿部,2020a;2022b)、EU域内向けの流通の問題や外れ値の問題などその集計に壁が高く、引き続き課題である。

図 2 EU主要国の電気自動車の輸出台数(2017年~2021年の合計、単位:台)

出所:Eurostat、UN Comtradeより筆者集計

注:Eurostatにおける2017年~2021年の合計の多い上位15か国を並べたもの

 

EUのような事情は他国でも同様かどうかである。まず、日本の貿易統計について別途見てみると、UN Comtradeの数値と完全に一致した。次に韓国については、UN Comtrade に2017年、2021年の数値がなかったが、韓国の貿易統計を別途見ると、それぞれ2万台、16万台の実績があることがわかった。つまり、輸出実績がなかったのではなく、記録がなかったということである。これらから、韓国の5年間の合計は42万台程度になる。

中国については、Global Trade Atlasを確認したところ、2018年、2019年、2021年の数値はUN Comtradeの数値とほぼ一致したが、2017年、2020年は10万台、19万台であり、UN Comtradeの数値と乖離があることがわかった。この結果、5年間の合計では118万台であり、UN Comtradeよりも25万程度多くなる。

イギリスについては、Eurostatを確認すると2017年、2018年、2019年の数値しか示されていなかった。これらの数値は他のEU諸国と同様にUN Comtradeよりも多くなっている。これに対して、Global Trade Atlasを確認すると、2017年から2021年の5年分の数値が示されている。この数値を見ると、2017年~2019年はEurostatの数値とほぼ一致し、2020年、2021年はUN Comtradeと一致する。そのため、5年間の合計は、Global Trade Atlasでは21万台となり、UN Comtrade(17万台)よりも4万台多くなっている2)

これらの結果、2017年から2021年までの5年間の世界の電気自動車の輸出台数は、491万台になり、第2節で示した400万台よりも大幅に多くなる。時系列的には、2017年:31万台、2018年:49万台、2019年:97万台、2020年:120万台、2021年:194万台になる。2021年は対前年比で162%であり、前節のUN Comtradeで示したものと同等の水準で増加傾向にある。

輸出国別に見ると、5年間の合計では、中国(118万台)は全体の24%のシェアであり、第2節より若干シェアが高くなっている。それにドイツ(71万台、14%)、アメリカ(57万台、12%)が続く点は第2節と同じだが、全体の数量が増加している分、シェアは低くなっている。ベルギーは同様に4番目に位置するが、輸出台数は53万台であり、アメリカに近づいた形となっており、第2節と比べるとそのシェアが11%に上がっている。韓国も輸出実績がなかった分が記録されたことで42万台と数値が大きくなっており、フランスを上回り、5番目の輸出国となっている。日本(11万台、2%)は11位であることは変わらないが、全体の合計が大きくなった分、シェアは下がっている。

2021年は、中国(50万台、26%)、ドイツ(32万台、17%)について数量は変わらないが、世界全体の合計が大きくなっているため、それぞれのシェアは小さくなっている。ベルギー(24万台、12%)は修正により、ドイツの台数に近づき、シェアも高くなっている。それに続くのが同じく修正された韓国(16万台、8%)であり、アメリカ(11万台、6%)が5番目に後退している。日本(4万台、2%)は、スロベニア(6万台、3%)、イタリア(4万台、2%)よりも低くなり、図1と比べると13位に後退している。

 

仕向地はどこか

一方、輸出された電気自動車がどこにどれだけ行っているかである。同じく国連の貿易統計のデータベース(UN Comtrade)を用いて、乗用車の電気自動車(HSコード:870380)の仕向地と数量を算出してみる。方法としてここでは2つ提示する。それは、①輸出国側の視点から仕向地別の輸出台数を示すもの、②輸入国側の視点から輸入国別の輸入台数を示すものである。

まず、①においては、第2節において集計したように、輸出の実績のある87か国を特定の国とし、データベースにおいて報告国=特定の国、相手国=全ての国(All)として、仕向地(相手国)別の輸出台数を集計していく。②においては、データベースにおいて、報告国=全ての国(All)、相手国=全輸入元の合計(World)として輸入データを集計する。

図3は、これらにより集計された電気自動車の貿易量を主要仕向地別で見たものである。図の左の棒グラフは輸出国側の輸出台数を仕向地(相手国)別に示したもの、右の棒グラフは輸入国側の輸入台数を仕向地(報告国)別に示したものである。

輸出国側のデータの合計は、輸出国87か国から輸出された台数の合計であり、第2節で見た400万台である。輸入国側のデータの合計は、世界各国の輸入台数の合計であり、2017年から2021年の5年間の世界全体の合計は341万台になる。その結果、輸入台数の合計は輸出台数の合計よりも少ない。仕向地の数は、輸出国側のデータでは219か国・地域、輸入国側のデータでは135か国・地域と差がある。

仕向地別で見ると、ドイツは輸出国側、輸入国側のデータともに多い。これより、ドイツは電気自動車の最大の仕向地であることがわかる。輸出国側のデータで多いのは、図3の並び順であり、ドイツにベルギー、バングラデシュ、イギリス、ノルウェー、フランスが続く。これに対して輸入国側のデータでドイツに続いて多いのは、ノルウェー、フランス、アメリカ、カナダ、中国、オランダ、イギリスである。往々にして先進国および自動車大国が仕向地になっていることはわかる。

ただし、例外もあり、新興国・途上国も上位に見られる。まず、バングラデシュは輸出国側のデータで数量的に3番目に位置している。同国は、輸入国側のデータでは実績はなく、これを参考にしていれば実態は浮かび上がって来なかった。このようなことが起こるのは、バングラデシュの貿易統計が十分に整備されておらず、国連に報告されていないことが想定される。尤も、実際にバングラデシュに輸入されていないという場合もある。バングラデシュから周辺国へ再輸出ということがあれば、バングラデシュ向けの輸出台数としてカウントされ、同国の輸入台数にカウントされないということはありうる。これ以外でもノックダウンのものについて輸出国で自動車として輸出され、輸入国で部品として輸入されれば乖離は起こりうる。なお、同国向けの電気自動車の輸出は、ほぼ全数が中国からである。例外的に数台レベルで日本やイギリスからの輸出もある。

図3を見ると、バングラデシュほどではないが、インドやタイも電気自動車の主要仕向地に位置づけられる。これらも輸出国側の台数に比べて輸入国側の台数は少ないため、輸入国側のデータではあまり実態が浮かび上がってこない。インド向けは、5年間の合計で14万台程度の電気自動車が輸出されているが、そのうち99.7%が中国からの輸出である。タイも同様で、5年間の合計で4.7万台程度の輸出のうち、96%の4.5万台が中国からである。しかも4万台超の大多数が2021年の実績である。

一方、先進国向けでも、輸出国側と輸入国側でデータが一致しないことがある。例えば、ドイツやノルウェーでは輸入国側のデータのほうが多く、ベルギーでは輸出国側のデータのほうが多い。あくまでも想像でしかないが、最終的にドイツやノルウェーに輸入される電気自動車であっても、ベルギー経由で輸出されることにより、輸出の時点で手続き上、ベルギー向けの輸出にした、ということもあるかもしれない。仮にそうであれば、統計上、ベルギー向けの輸出が過多となり、ドイツやノルウェー向けが過少になりうる。EU域内の移動について、どのように統計処理されているかは今後解明していく必要がある。

なお、輸入国側のデータでは、年によって輸入実績のない国もある。例えば、フランスの2017年、2019年、オランダの2021年、イギリスの2017年、2018年、2019年、2020年は実績がない。また、フランスの2018年の輸入実績はわずか1台であり、現実的とは思えない。これらも輸出国側と輸入国側のデータの乖離の要因なのかもしれない。精緻化するためには、第2節、第3節で示したようなプロセスを踏む必要があるだろう。

図 3 電気自動車の輸出・輸入台数(主要仕向地別、2017年~2021年の合計、単位:台)

出所: UN Comtradeより筆者集計

注:「輸出国側」は報告国(Reporter)を輸出国とした各仕向地向けの輸出台数、「輸入国側」は報告国(Reporter)を輸入国とした輸入台数。主要仕向地は輸出国側の輸出台数において、2017年~2021年の合計の多い上位20か国。

 

新興国・途上国への輸出

世界最大の輸出国である中国の仕向地をより丁寧に見てみたい。図4は、中国からの電気自動車の輸出台数について、2017年から2021年の5年間の合計の上位20か国を並べたものである。ここでは、Global Trade Atlasの数値と、図3で示したUN Comtradeの輸出国側の数値を並べている。これを見ると、いずれのデータでも中国からの輸出台数の主要20仕向地は同じ順位で並んでいる。また、ノルウェーを除いた19か国・地域で、UN Comtradeの数値よりもGlobal Trade Atlasの数値のほうが多い。

全体のシェアを見ると、Global Trade Atlasではバングラデシュが48万台で、全体(118万台)の41%を占め、それにインド(20万台、17%)、ベルギー(10万台、9%)、イギリス(6万台、5%)、タイ(5万台、4%)を加えた上位5か国で76%を占める。フィリピンまでの7か国で80%、イスラエルまでの15か国で91%になる。日本は7千台であり、18番目に位置する。

2021年に関して言えば、Global Trade Atlasの数値では、ベルギーが9万台と最も多く、バングラデシュ(8万台)を上回っている。ベルギー向けは2019年までは年間100台も満たない実績だったが、2020年に急に1万台と増加し、2021年も対前年比で621%である。対照的にバングラデシュ向けは2019年が14万台であったものが、2020年、2021年はともに8万台と低迷している。2021年でベルギー、バングラデシュに続くのが、イギリス(5万台)、インド(5万台)、タイ(4万台)、ドイツ(2万台)、スロベニア(2万台)などである。2021年の欧州向けの対前年比はいずれも高く、この1~2年で急激に拡大している様子が見受けられる。

バングラデシュを筆頭として、インド、タイ、フィリピン、ネパールなど、先進国のみならず、新興国・途上国が上位に位置する点は中国からの輸出の特徴と言える。ただし、アフリカ向けはほとんどなく、最も多いアンゴラ向けも、5年間の合計で1307台(Global Trade Atlas)である。他には、エジプト:738台、ガーナ:241台、エチオピア:183台、マダガスカル:140台、コンゴ民主:109台、ジブチ:83台である。ナイジェリアも5年間の合計で68台でしかない。

アジア向けは、バングラデシュ、インド、タイ以外では、図4に示される通り、フィリピン(2万台)、韓国(2万台)、香港(8千台)、日本(7千台)、ネパール(7千台)が主要仕向地となっている。東南アジアでは、マレーシア、インドネシアが5年間の合計でわずか142台、108台であり、タイと比べると大幅に少ない(いずれもGlobal Trade Atlasの数値)。ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーも5年間の合計でそれぞれ617台、216台、186台、88台でしかない。新興国・途上国でも差があり、今は集中的に特定の国に輸出しているようにも見受けられるが、まだ市場が芽生えた段階であると思われ、実態を観察しつつ、これがどのように変わるかは今後議論してく必要がある。

図 4 中国の電気自動車の輸出台数(主要仕向地別、2017年~2021年の合計、単位:台)

出所: Global Trade Atlas、UN Comtradeより筆者集計

注:主要仕向地はGlobal Trade Atlasの輸出台数において、2017年~2021年の合計の多い上位20か国。

 

中国では上位に新興国・途上国の名前が散見されたが、欧州諸国ではそれがほとんどなく、仕向地は先進国ばかりである。第3節で見た通り、EU各国(27か国)の輸出台数の5年間の合計はEurostatから240万台である。このうち、EU域内向けの輸出の合計は164万台で68%を占める。残る76万台はEU27か国域外向けの輸出になる3)

図5は、このEU域外向けの5年間の輸出台数76万台のうち、主要仕向地別に示したものである。これを見ると、イギリス(25万台)、ノルウェー(23万台)、アメリカ(11万台)、スイス(5万台)、中国(2万台)向けが上位を占め、この5か国向けでEU域外向けの88%を占める。よって、EU域外であっても先進国が主な仕向地となる。

EUからの輸出で注目されるのがアフリカであるが、アフリカの国は主要仕向地として図5には登場しない。5年間の合計で100台を超えているアフリカ諸国のはわずか4か国である(南アフリカ:561台、モロッコ:229台、モーリシャス:157台、エジプト:148台。いずれもEurostatより)。アフリカ向けは日本や韓国からもまだ少なく、中国が現時点で最大の輸出国となっている。尤も、その中国もアフリカ向けは少ない。

なお、図にあるようにEUでは電気自動車の中古車輸出台数を算出することができる。EU域外への電気自動車の中古車輸出台数は5年間の合計で4万台であり、72万台の新車に対してまだ少ない。しかも、ノルウェー向けが70%を占める。いずれにしろ、これも時代とともに増加することは予想されるため、今後の動向が注目される。

図 5 EU域外向け電気自動車の輸出台数(主要仕向地別、2017年~2021年の合計、単位:台)

出所: Eurostatより筆者集計

注:イギリスを除く27か国。主要仕向地は2017年~2021年の合計の多い上位20か国・地域。

 

 

今後の視点

電気自動車の販売が急速に増加する中で、電気自動車を巡るグローバルな流通構造の変化は気になるところである。1つは先進国を中心として行われる電気自動車の販売・使用促進政策により、古くなった内燃機関車が早期に廃棄され、中古車価格が下がり、それが他国に輸出されるという構造である。その仕向地は電気自動車の販売・使用促進をあまりしていない国が考えられ、往々にして新興国・途上国が想定される。

もう1つは電気自動車そのものの新興国・途上国への輸出である。電気自動車は価格が高く、所得の高い層の多い先進国を中心にまず浸透する印象はあるが、一方で中国における低価格の電気自動車の販売により、新興国・途上国においても早期に広がる可能性はなくはない。ガソリンスタンドよりも電力のインフラが整っているのであれば、内燃機関車よりも電気自動車が好まれるかもしれない。そうなると、先進国で古くなった内燃機関車はどこに行くか、という新たな視点が生まれる。これらはあくまでも想像のレベルであり、データを見ながら構造を見ていく必要がある。

本稿では貿易統計により世界の電気自動車の貿易構造を把握した。十分に予想されたように世界の電気自動車の輸出台数は増加傾向にある。2021年の世界の合計はUN Comtrade(第2節)で161万台、その修正値(第3節)で194万台であり、それぞれ対前年比は169%、162%となっている。主要輸出国も報道で示された通り、中国を首位として欧米等先進国が続くという構図である。2021年の実績では、中国が3割程度、ドイツが2割程度のシェアを占めている。UN Comtradeでは抜けている実績もあるため、個別の貿易統計で補う必要性も本稿により示された。

仕向地に関して言えば、統計の精度等の問題を抱えるが、今回の範囲で言えば、電気自動車は先進国を中心に輸出されているといえる。とはいえ、新興国・途上国への輸出がないわけではない。バングラデシュやインド、タイのように、中国からの輸出において新興国・途上国が主要仕向地となっている状況も観察された。マレーシアなどへの輸出がほとんどない様子を見ると、現状は集中的に特定の国に輸出されているようにも見える。アフリカはまだその対象になっていないように見受けられるが、これが今後どうなるかである。

以上

 

参考文献

  • 阿部新(2020a)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2020b)「中古ハイブリッド車等の貿易量の国際比較」『速報自動車リサイクル』(98),76-85
  • 阿部新(2021)「イギリスの中古車輸出市場を捉える」『速報自動車リサイクル』(101),58-67
  • 阿部新(2022b)「中古乗用車輸出台数の国際比較」『速報自動車リサイクル』(102),40-49
  • 阿部新(2022c)「アフリカ向け中古車輸出台数の国際比較」『速報自動車リサイクル』(102),60-71

 

1) これはEU各国の輸出台数の合計であって、各国のEU域内向けの輸出台数も含むことを注記しておく。EU27か国からの輸出台数を算出するには、EU域内の流通量を削除する必要がある。ちなみにEU(27か国)からEU域外向けの輸出台数の5年間の合計は、UN Comtradeで72万台、Eurostatで76万台である。

2) ただし、イギリスについては、これまでの研究から異常と思われる値が記録されることが比較的多く、注意を要する(阿部,2020a;2021)。今回は全体との対比から異常性を感じなかったため、その確認作業は省略した。

3) これはEurostatでの数値である。第2節で示した通り、UN Comtradeでは72万台である。

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