事故車修理の標準作業時間、国交省が初の第三者調査――板金でCAB工数が大きい傾向、差の多くは付帯作業の計上方法

国土交通省は6月24日、「事故車修理の標準作業時間 調査結果」を公表した。事故車の修理工賃を決めるうえで広く使われている「自研指数」について、ドイツの専門会社に独自の標準作業時間(CAB工数)を策定させ、第三者的な立場から比較した初の調査である。板金作業ではCAB工数のほうが長くなる傾向が確認されたが、その差の多くは付帯作業の計上方法の違いによるものであり、国交省は「自研指数の妥当性を否定する趣旨ではない」と強調している。

背景――「この時間では終わらない」という現場の声

事故車の修理工賃は、一般に「標準作業時間 × 工賃単価」で算定される。このうち標準作業時間には、自研センターが策定する自研指数が広く用いられている。一方、車体整備事業者からは「この指数の時間では終えられない作業がある」との声が上がっていた。こうした声を踏まえ、国土交通省が第三者的立場から実態を調べたのが今回の調査である。

調査方法――独CAB社に工数策定を依頼し、自研指数と比較

調査では、世界各国の自動車メーカーから標準作業時間の策定業務を請け負うドイツのCAB社(CAB Deutschland GmbH)に、本調査用の新たな標準作業時間の策定を依頼した。これを「CAB工数」と呼び、自研指数と比較する形をとった。なお、CAB社との調整はテュフ ラインランド ジャパン(株)に委託している。

対象車種は、最新技術を用いた代表的な車両のうち英語マニュアルが入手できるものを優先し、効率化のため1メーカーに絞って次の3車種を選定した。

  • ①トヨタ・ヤリス(コンパクトハッチバック)……コンパクトカー
  • ②レクサス・IS300h(ミッドサイズセダン)……セダン
  • ③レクサス・NX450h+(ミッドサイズSUV)……SUV

他メーカーの車両についても、今後の調査で順次実施する予定としている。

結果――板金はCAB工数が大きい傾向、塗装は差が小さい

板金作業(本調査では脱着・取替を対象)と塗装作業について検証した結果、板金ではCAB工数が大きくなる傾向が見られた一方、塗装では板金に比べて差異は小さい傾向となった。

■ 板金作業の比較(単位:時間、括弧内は自研指数)

作業内容(概要) ヤリス IS300h NX450h+
①エキゾーストテールパイプAssy 取替/脱着 0.4(0.2) 0.5(0.2) 0.4(0.2)
②エキゾースト系Assy 取替/脱着 0.9(0.5) 1.4(0.9) 1.1(0.4)
③クォータパネル等 取替(B270) 12.1(8.1) 27.4(18.8) 17.3(12.2)
④ロワバックパネル等 取替(B290) 12.3(5.7) 10.6(6.2) 7.6(6.6)
⑤ラジエータサポート・フロントサイドメンバ等 取替(B180) 25.9(15.0) 40.1(27.5) 33.6(27.2)
図1 板金作業(主要作業③④⑤)の比較。3車種ともCAB工数が自研指数を上回る傾向がみられる。(国土交通省の調査結果をもとに作成)

■ 塗装作業の比較(単位:時間、括弧内は自研指数)

対象部位 ヤリス IS300h NX450h+
ボンネット 7.2(6.2) 8.7(8.1) 9.0(8.3)
フロントフェンダー 7.0(5.4) 7.6(6.2) 8.1(6.2)
フロントドア 7.5(6.4) 8.0(7.6) 8.6(7.7)
リヤドア 7.6(6.2) 8.0(7.1) 8.5(7.4)
クォータパネル 8.5(6.6) 8.6(8.1) 8.6(8.1)
バックドアパネル 8.1(6.6) 8.1(7.2) 8.0(7.9)
ロワバックパネル 6.8(6.0) 7.2(6.6) 6.7(6.6)
ルーフパネル 9.6(8.2) 9.4(9.5) 9.5(10.9)
ロッカパネル 7.1(5.5) 7.7(6.0) 7.3(6.1)

※塗装は新品パネルの塗装に隣接箇所のぼかしを加えた作業。欧州と日本で品質の考え方に差があるが、日本と同等の条件に近づけて比較している(余裕率は20%)。

図2 塗装作業(9部位)の比較。値は3車種の平均。いずれの部位も差は小さく、ルーフパネルでは自研指数がわずかに上回る。(国土交通省の調査結果をもとに作成)

差異の主因は「付帯作業の計上方法」――ヤリス①では差が消失

板金で大きな差が出た作業もあるが、ここは読み方に注意が必要である。自研センターによれば、自研指数は事故車の補修で一般的に同時に実施される作業について、重複計上を避けるため、準備作業やリフトアップなどの付帯作業を関連する他の作業内容に含めて設定している場合がある。一方、CAB工数は作業内容ごとに付帯作業を設定し、重複する場合は削除する考え方をとる。つまり、両者は付帯作業の「持たせ方」が異なる。

今回の調査でこの点が具体的に確かめられたのが、「ヤリス①エキゾーストテールパイプAssy取替」である。CAB工数の内訳を開示し、自研センターが検証したところ、車両のリフトアップなどの付帯作業は一般的な事故車補修では他作業に加味されることになるため、最終的に両方式とも0.4となり差異はなくなった。

図3 差異の主因は付帯作業の計上方法。ヤリス①では、付帯作業を加味して検証すると両方式とも0.4時間となり差異が消失した。(国土交通省の調査結果をもとに作成)

ポイント 表に出ている板金の差は、「自研指数が短すぎる」ことを直ちに意味するものではない。付帯作業をどの作業項目に積むかという計上ルールの違いが、見かけ上の差として表れている部分が大きい。

調査の位置づけ――優劣を決めるものではない

国交省は調査結果の位置づけについて、次の点を明確にしている。本調査は同条件での比較が困難であることから、過去に決定された作業時間やその妥当性を評価することを目的としたものではなく、CAB工数と自研指数の優劣の決定や、国内で普及している自研指数の妥当性の否定を目的としたものでもない。また、限られた車種・特定の作業項目についての比較であり、すべての車種や作業に一律に適用されるものではなく、あくまで一定条件下の参考値である。個別事案における作業時間の妥当性を裏付ける資料として用いることは適当でない、としている。

国交省の今後の対応

(1)自研センターを含めた関係者との対話 本調査で明らかになった2方式の差異について、自研センターと連携し、計測条件や作業項目の整理方法の違いを整理する。その際、民間企業のノウハウである部分には配慮する。そのうえで、自研センター・損害保険会社・車体整備業者などの関係者による対話を実施し、より実態に即した標準作業時間を策定するための建設的な議論を進める。

(2)車体整備事業者への周知 車両の状態や修理方法によって自研指数の時間内に作業が終わらない場合は、損害保険会社と個別に交渉することを周知する。ここで国交省が重ねて求めているのが、交渉姿勢の透明性である。今回の比較結果はあくまで一定条件下の参考値であり、これを根拠に「自研指数の○○%増」といった形で修理費を提示・交渉するのは適当でない。損害保険会社や顧客に対し、透明性をもって作業時間の妥当性を説明することが求められる。あわせて「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」「車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針」にも留意するよう促している。そのうえで、損害保険会社の不合理な説明によって交渉が進まない場合には、国土交通省の情報提供窓口に情報を入れることを案内している。

(3)調査の継続実施 標準作業時間の調査は、令和8年度以降も継続的に実施する。今回の調査方法や結果に対する関係者の意見を踏まえながら進めるとしている。

参考:CAB工数の策定方法
ボルトの脱着や溶接などの最小作業単位について、あらかじめ実測で時間を設定(板金作業であれば4万時間以上の計測結果をもとに策定)。車種ごとの修理マニュアルから必要な作業項目を抽出し、組み合わせて標準作業時間を算出する(ヤリスであれば2,204種類の作業項目で構成)。

まとめ

今回の調査は、車体整備の現場が抱えてきた「この時間では終わらない」という声に対し、国が第三者の視点で初めて踏み込んだ点に意義がある。結果として板金でCAB工数が大きい傾向は確認されたものの、その多くは付帯作業の計上ルールの違いに起因する見かけ上の差であり、自研指数を否定するものではない。重要なのは、この結果を「値上げの根拠」として一方的に使うのではなく、透明性をもって作業の妥当性を説明し、関係者の対話のなかでより実態に即した標準作業時間へと近づけていく姿勢である。国交省の継続調査と関係者対話の行方が注目される。

【出典】国土交通省 報道発表「事故車修理の標準作業時間 調査結果について」(令和8年6月24日)/問い合わせ先:国土交通省 物流・自動車局 自動車整備課

広告