精神疾患の社員は復職できるか?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年10月号Web記事

Q、精神疾患の社員は復職できるか?

弊社はおかげさまで入庫が多いのだが、業務の忙しさなどから、整備士の1人がうつ病にかかってしまった。しばらく治療に専念させていたのだが、このほど医師から復職OKの許可が出たため、本人は整備士として再びやりたいと言っている。このまま復職させても問題ないだろうか?

A、

うつ病をはじめとする精神疾患に関するご質問は増加傾向にあります。社員が精神疾患にかかってしまうと、本人も周りの社員も疲弊してしまうという話もよく聞きます。

こうなる前に休職命令などを出して対応することが必要ですが、その後の対応として「復職について」のご相談も多くいただきます。

例えば、「休職期間が満了したが、病気が治っていない」「復職希望と言われたが、果たしてどの程度の業務がこなせるのか?」「『今までの仕事は難しいが、簡単な業務なら大丈夫』と言ってきたが、どの仕事に付かせていいのか分からない」「本当に復帰させて今まで通りの仕事ができるのか?」などがあります。精神疾患は目に見えるケガとは違うので、会社としても復職の判断が難しいのです。そこで、参考となる裁判があります。

<伊藤忠商事事件 東京地裁 平成25年1月31日>

総合職社員が体調を崩し、躁うつ病と診断され、実際に、対人業務に支障をきたした(後で解説しますが、「総合職」という点がポイント)。そのため、会社は就業規則により2年9か月の休職を命じたが、この社員は休職期間中に復職を申し入れたため、会社はトライアル出社を開始させた。しかし、この社員のトライアル出社は厳しく、健康管理委員会(人事部長、健康管理室長、産業医など)の決定により、継続は不可と会社が判断した。休職期間満了日に雇用契約終了としたが、この社員はこれを不服とし、裁判所に訴えた。

裁判所の判断

〇休職命令は就業規則に規定された折り、期間満了での雇用契約終了も規定されている。

〇この社員から復職可能の申し出があったが、病状等の回復などの休職理由の消滅は本人が証明すべきだが、立証できていない(復職を申し出た場合、病状回復の証明は従業員側の義務)。

〇社員は総合職として入社したので、総合職としての業務がこなせなければ、復職は不可との判断は妥当。休職前の仕事は無理でも、他の総合職の仕事ができれば復職を可能とするべきだが、今回はそれも不可だった。総合商社での複雑な仕事は無理と考えられる。

以上のような判断から会社の主張が通り、会社勝訴となったのです。この裁判のポイントは、

〇復職について主治医の診断を尊重しつつも、疑わしい部分については「徹底的に」検証している
→主治医の診断と本人の申し出で、トライアル出社のチャンスを与えた
→トライアル出社の状況から健康管理委員会で復職不可の判断を実施した

〇この裁判で「復職=休職前の職種」でなくてもOKと判断された

○同じ属性の他の職種でも復職不可なら、雇用契約終了は妥当

と判断された点です。復職、雇用契約終了に関する検証は「複数の目」を持って判断することが大切なことです。
さらに、復職希望者に対して「前の職場へ復帰させなければならない」と考えられがちでしたが、この裁判で「社員の属性の中で考えるべき」と判断されたことは大きいでしょう。

ですから、
〇総合職の社員 →復帰後も総合職の仕事が可能かどうか
〇一般職の社員 →復帰後も一般職の仕事が可能かどうか
〇専門職の社員 →復帰後も専門職の仕事が可能かどうか

となるのです。逆に言うと、「総合職の仕事は厳しいので、一般職の仕事をしてもらう」ということは考える必要がなく、この場合は雇用契約終了で退職となることは妥当なことなのです。

このような判断基準が裁判でみえてきましたが、一番大切なのは、
〇就業規則に休職、復職の条文が明記されていること
〇その条文での休職、復職の判断基準や方法も記載されていること
〇精神疾患等の社員が現れた場合は、就業規則を基に対応を考えること
〇判断がつかない場合は、専門家の意見を尊重しつつ、会社で判断する

ということです。精神疾患と仕事の問題はとてもナーバスであり、取扱いを間違えると周りの社員にも取引先にも大きな影響が出てしまいます。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

広告