第116回:統計に表れない数量をどのように示すか:ドイツの中古車輸出台数等の算出方法

山口大学 国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

EU(欧州連合)では、2000年に使用済み自動車に関するいわゆるELV指令が発効し、日本よりも早い段階で使用済み自動車を回収する制度が構築されている。しかし、不要となった車の行方が不明であり、その問題は長らく指摘されていた。ELV指令の見直しの議論においてこの行方不明の問題も重要な論点の1つとなっている。

行方不明車がどの程度あるのかは、抹消登録台数(「廃車台数」とも呼ばれる)から使用済み自動車台数と中古車輸出台数を差し引くことで見えてくる。ドイツでは、連邦環境・自然保護・原子力安全省により発行されている使用済み自動車のリサイクル等に関する年次報告書(以下「年次報告書」とする)を公表しているが、2008年版よりこの抹消登録台数の内訳および行方不明車の数量が示されている。

阿部(2020)では、EUおよびドイツの抹消登録台数の内訳の現状を整理した。通常、抹消登録台数は自動車保有台数と新車登録台数を用いて算出する。EUに関する研究でもこの方法で算出していることが分かった。

しかし、ドイツを見ると、この方法は用いず、独自の方法で算出していた。そこでは、先行研究としてSander et.al.(2017)をあげており、その考え方に基づいて算出したと書かれていた。

また、ドイツではEU域外向けの中古車輸出台数について、貿易統計に表れない数量があるとし、公式の貿易統計の数値のほか、追加分の推計を行っていた。貿易統計に表れない追加分の数量については、Sander et.al.(2017)の考え方に基づいて算出していることが示されていた。

Sander et.al.(2017)は、調査会社のエコポール、ロイファナ大学リューネブルク、ヴッパータール研究所の共同研究であり、309ページにも及ぶ。その内容はドイツの抹消登録台数の内訳について様々なシナリオを提示し、公式の統計の数値に対して関係者のインタビューから実態との乖離を指摘し、統計に表れない数量を追求している。

本稿では、Sander et.al.(2017)をサーベイし、このうち阿部(2020)で解明できなかった抹消登録台数およびEU域外向け中古車輸出台数の追加分の算出方法について、整理しておく。

 

2.一時抹消登録台数の算出

阿部(2020)で見たように、ドイツでは、日本で言う永久抹消、輸出抹消に相当する「最終抹消登録」(final deregistration)が2006年まで記録されていた。しかし、2007年以降はその記録がされなくなり、代わりに「公道で使用できない状態にするための届出」(off-road notification)が記録されるようになった。

それは一時抹消登録と最終抹消登録(永久・輸出)を含むものだが、抹消した時点では、全ての対象車両が再登録される可能性があるため、事実上、一時抹消登録になる。阿部(2020)では、「最終抹消登録」と区分するため、この届出を「一時抹消登録」と呼び、その件数のデータから「最終抹消登録」の推計値を算出するプロセスを説明した。

そこでは一時抹消登録の対象車両のうち、その年に複数回手続きをするものがあり、一時抹消登録件数はダブルカウントが含まれていることが示されていた。そのため、一時抹消登録件数の4%分(乗用車)と3.5%分(小型貨物車)を割り引き、一時抹消登録の対象台数を算出する。そして、このうちの最終抹消登録台数の割合を34.1%(乗用車)、40.2%(小型貨物車)とし、このパラメータを掛け合わせることで最終抹消登録台数を算出していた。

これらのパラメータの算出根拠は、Sander et.al.(2017)によるとされる。これを見ると、関係するデータが示されている。まず、複数回手続きをする車両については、Sander et.al.(2017)のTable 35(乗用車)とTable 36(小型貨物車)に示されるデータから算出されている(p.190-191)。具体的にそれぞれ2010年、2014年の一時抹消登録「件数」、一時抹消登録「台数」、一時抹消登録「回数」が示されている。

ただし、Sander et.al.(2017)では、それらの数値の関係の説明が十分にされておらず、当初はTable 35、 Table 36の見方が分からなかったが、一時抹消登録件数は、各回数の車両台数×回数を足し合わせたものに一致することが分かった。乗用車について、それらを分かりやすく並べたのが表1である。

例えば、表1において2010年に一時抹消登録を2回行った車両は283,094台である。これが意味するのは、この対象車両により、283,094(台)×2(回)=566,188(件)の一時抹消登録の手続きがなされているということである。このような形で各回数の件数を算出し、足し合わせると、2010年の一時抹消登録件数の合計(7,185,123件)が得られる。

これに対して、一時抹消登録台数は6,870,277台であるから、乗用車について2010年の一時抹消登録台数に対する一時抹消登録件数の割合は95.6%となっている。つまり、一時抹消登録件数の4.4%を割り引いた数値が一時抹消登録台数になるということである。同じように計算し、2014年の一時抹消登録台数に対する一時抹消登録件数の割合95.6%が得られている。

なお、表1を見ると、抹消登録の手続きは年間で1回がほとんどであり、2回でほぼ100%になっていることが分かる。2010年は手続き1回が95.7%、2回以内が99.8%、2014年は手続き1回が91.4%、2回以内が99.3%である。手続きが15回というものもあるが、それらは異例であり、複数回と言ってもそんなに頻繫に手続きを行うものではないと言える。

表 1 一時抹消登録件数と一時抹消登録台数の合計(乗用車)

  2010年   2014年  
抹消登録の回数 対象車両台数 対象車両台数×回数 対象車両台数 対象車両台数×回数
1回 6,571,797 6,571,797 7,441,549 7,441,549
2回 283,094 566,188 319,826 639,652
3回 14,511 43,533 17,406 52,218
4回 787 3,148 1,070 4,280
5回 74 370 71 355
6回 11 66 11 66
7回 3 21 2 14
8回 0 0 1 8
9回 0 0 1 9
11回 0 0 3 33
13回 0 0 1 13
15回 0 0 1 15
合計 6,870,277 7,185,123 7,779,942 8,138,212

出典:Sander et.al.(2017), Table35より筆者作成

 

3.最終抹消登録台数の算出

次に、一時抹消登録台数から最終抹消登録台数を推計するパラメータについて考える。ドイツの年次報告書の2017年版では乗用車は34.1%、小型貨物車は40.2%にアップデートされていたが、それ以前では乗用車は33.3%、小型貨物車は41.4%を用いられていた。

この数値はSander et.al.(2017)で示されたものである。つまり、乗用車については、一時抹消登録台数のうち、33.3%が最終抹消登録台数(中古車輸出または解体)であり、残り66.7%が再登録台数という位置づけになる。

Sander et.al.(2017)がこれらの数値をどのように出したかである。ここでは2010年に一時抹消登録された車両について、手続きから4年間まで追跡し、2010年に事実上、最終抹消登録となった数量を集計することで、最終抹消登録台数と再登録台数を分けている。

そこでは、解体証明が発行されたかどうかというデータと、一時抹消登録後に連邦自動車庁(Central Vehicle Register, CVR)に何らかの手続きをしているかどうかというデータに基づいて最終抹消登録か否かを判断している。連邦自動車庁の手続きは、再登録や名義変更、移転登録、解体証明届出など多くの項目が一覧表で示されている(pp.188-189)。

表2はSander et.al.(2017)の分類を整理し、その分類に含まれるTable 37(乗用車、2010年)のデータを示したものである。そこでは上記で示したように、解体証明の有無、連邦自動車庁手続きの有無で分類されている。

また、一時抹消登録後、4年間追跡したことで得たデータかどうかも示している。この中で、Sander et.al.(2017)では、(1)~(4)を最終抹消登録、(5)を再登録された一時抹消登録と区分している。

なお、対象車両台数の合計は6,855,694台であるが、これは本来であれば表1の対象車両台数の合計(6,870,277台)と一致するはずである。これについて、Sander et.al.(2017)では脚注において、抹消手続きから連邦自動車庁への報告おいてタイムラグがあることを言及している(p.191)。実際に、その差は14,583台であり、誤差の範囲であると言える。

また、表2の分類項目のうち、解体証明については「あり」「なし」「あり(後に提出)」というものがある。このうち、「あり(後に提出)」はSander et.al.(2017)では「後に提出されたもの」(「submitted subsequently」)と書かれているものである。

その次に示される追跡データ(Table 38)を見ると、「後に提出されたもの」に分類されたデータは一時抹消登録後の1年目~4年目のものであることが分かる。それらは表3に示される。

表 2 一時抹消登録台数の行方(乗用車)

  解体証明 連邦自動車庁手続き 対象車両台数 データ追跡 行方
(1) あり なし 84,131 なし 最終抹消
(2) なし なし 2,151,838 なし 最終抹消
(3) あり(後に提出) なし 27,045 あり 最終抹消
(4) あり(後に提出) あり 21,441 あり 最終抹消
(5) なし あり 4,571,239 あり 再登録
  合計 6,855,694
  合計 6,855,694

出典:Sander et.al.(2017), Table37より筆者作成

表 3 一時抹消登録後の最終抹消登録台数、再登録台数(乗用車、時期別)

(3)最終抹消 (4)最終抹消 (5)再登録
1年目 25,041 20,419 4,332,430
2年目 1,275 827 178,777
3年目 460 150 40,704
4年目 269 45 19,328
合計 27,045 21,441 4,571,239

出典:Sander et.al.(2017), Table38より筆者作成

表2の(1)については、2010年に解体証明が出されたものであり、その年に解体されたことが分かる。(3)については、2010年に一時抹消登録されたもので、それからしばらく経って解体されたものであり、2010年の最終抹消登録台数の内訳に含まれると言える。(5)については、2010年に解体証明が発行されておらず、一時抹消登録後に連邦自動車庁の手続きがあったものであり、再登録とみなすことができる。

表3の(5)を見ると分かるように、一時抹消登録後に連邦自動車庁の手続きが記録されているのは1年目が圧倒的に多く、94.8%を占める。つまり、すぐに再登録されるということである。3年目の累計で99.6%にもなり、4年目は0.4%である。これを考えると、2010年に一時抹消登録されたものが、5年目以降に再登録される、ということはほとんどないと言える。

(2)については、解体証明が発行されておらず、かつ抹消手続き後に連邦自動車庁の手続きがなかったものである。これは抹消手続き後、4年目になっても連邦自動車庁の手続きの記録がなかったということである。

5年目以降に再登録することが現実的に少ないことが予想されるため、一時抹消登録のまま、使用されているか、解体または輸出されているかになるのだろう。つまり、一時抹消登録状態のまま、「消えた」ということである。

理解できなかったのが、(4)である。これは、一時抹消登録後に連邦自動車庁の手続きがあったもので、かつ解体証明が後に提出されたものである。Sander et.al.(2017)ではこれを2010年の最終抹消登録台数の内訳に含めているが、2010年で良いのだろうか。数量的には多くはないので問題にはならないが、この点は今回は解明できなかった。いずれにしろ、(1)~(4)が最終抹消登録台数に含まれるものである。

 

4.統計に表れない中古車輸出のケース

阿部(2020)においては、EU域外向けの中古車輸出において、統計に表れない数値があることが言及された。それは貿易統計の数値の54.4%であるとした。次にこれを見ておきたい。

改めて、ドイツの連邦環境・自然保護・原子力安全省の年次報告書の2015年版を見てみると(Federal Ministry for the Environment Nature Conservation and Nuclear Safety, 2017)、統計に表れない理由について、同年次報告書では、「一段階プロセス」(ドイツ語版:einstufigen Verfahren, 英語版:single-stage process)で輸出される中古車か、他のEU加盟国の出口税関から通関業者によって輸出される場合に、制度的にドイツの税関統計に記録されないからであると述べられている。

この議論の中で、ドイツで最終抹消登録となり、ベルギーを経由してEU域外に輸出されるケースが示されている。そこでは、2013年に116,732台の中古乗用車(M1)がドイツからベルギー経由で輸出されたが、ドイツの税関統計には計上されていないようである。

同年次報告書では、それを他国にも適用し、ドイツからEU域外への中古車輸出のうち、統計に表れない台数を18.4万台から36.3万台であるとする。そして、この範囲のうち下位の傾向があると述べ、その数値を21万台程度とし、公式の貿易統計の数値38.6万台の54.4%としている。

この時点で、ベルギーの116,732台のケースからどのようにして18.4万台から36.3万台という数値を算出したのか、そしてなぜ21万台程度なのかという点が分からない。年次報告書では、これらの数値は先行研究のSander et.al.(2017)で示されたことを言及している。そこで、以下ではこの記述を確認しておく。

Sander et.al.(2017)を見ると、統計に表れない理由として、まず制度上の問題が挙げられている(p.107)。これは商品価値が1,000ユーロ以下の場合に輸出は記録されないというものである。1,000ユーロ以下は口頭で輸出申告がされるものであり、重量1,000kg以下のものも同様の扱いである(p.148)。

Sander et.al.(2017)は、これが統計に表れないことは先行研究でも指摘されてきたことであるとしているが、連邦統計局は反論しているようである(p.107)。同局へのインタビューでは、口頭で輸出申告がされるとしても、手続きは電子システムで行われ、価値に関係なく、ほぼ全ての中古車は統計に記録されることになっているという。

これに対して、Sander et.al.(2017)は、ドイツから他のEU加盟国経由で域外に輸出される低価格車の統計上の扱いについては、別途検証するとしている。

次に、Sander et.al.(2017)は、既存の制度の執行が不完全であることも統計に表れない要因としている(pp.107-108)。具体的には、輸出時の検査が十分ではないことから、コンテナに積まれて輸出申告がされなかったり、別の品目(家具など)で輸出申告がされたりすることがあるという。

また、日本でもあるように盗難車を解体して、部品として輸出することもある。検査不十分の背景として、ドイツおよび他のEU加盟国の税関の人手や予算が足りないこと、中古車と使用済み自動車の判別の複雑さなどが指摘されている。

先に示した「一段階プロセス」で輸出される中古車も、同じく既存の制度の執行が不完全であることで税関統計に表れないとしている(p.108)。正確にはSander et.al.(2017)では「一段階輸出手続き」(ドイツ語版:einstufigen Ausfuhrverfahren, 英語版:single-stage export procedureまたはone-step export procedure)と書かれているが、「一段階プロセス」と同じものと考えられる。

具体的には、3,000ユーロ以下の商品価値の自動車が一段階輸出手続きの対象になりうる(p.144)。3,000ユーロというこの商品価値は複数台の輸出でも適用され、例えば500ユーロの自動車を6台輸出する場合でも3,000ユーロ以下ということで一段階輸出手続きの対象となる。

また、所有者自らが運転をしてEUの域外に輸出する場合も、一段階輸出手続きの対象となる。これは、車両価値に関係ないため、3,000ユーロを超えるものでも一段階輸出手続きの手続きとなり、統計に表れない場合があることになる。

Sander et.al.(2017)によると、一段階輸出手続きのほかに、二段階輸出手続きというものがあることが分かる(p.144)。その違いは輸出申告の提出場所であり、一段階輸出手続きは輸出の出口となる税関、二段階輸出手続きは管轄の税関であり、それらは必ずしも一致しない。3,000ユーロ以下は全て一段階輸出手続きで輸出されるというわけではなく、3,000ユーロ以下であっても二段階輸出手続きで輸出されるものもあるようである(p.208)。

一段階輸出手続きでは、ドイツから他のEU諸国の税関経由で輸出される場合に、その出口となる税関からドイツの関係機関に報告がなされることになっている。しかし、Sander et.al.(2017)は、この報告がされないケースがあると指摘しており、その結果として一段階輸出手続きの数量が統計から漏れるとしている(p.108)。

先述したように、2013年にドイツからベルギー経由でEU域外に輸出された116,732台の中古車は公式の税関統計に計上されていない。Sander et.al.(2017)を見ると、これは同国のアントワープ経由の中古乗用車(M1)の輸出であることが分かる(p.205)。

また、税関統計に表れているドイツ各地からのアントワープ経由のEU域外輸出台数は31,387台であるとも記され、その数量についてドイツ側の税関別の内訳なども示されている。つまり、アントワープ経由については統計に表れていない数値の方が多い。

Sander et.al.(2017)では、連邦財務局のインタビューにより、一段階輸出手続きによる輸出は、アントワープのITシステムを通して申告されない可能性があることを示している。このことはアントワープ経由で3,000ユーロを下回る中古車の輸出を手掛けたドイツ・ハンブルクの運送業者からも確認しているとしている。

この運送業者は、このようなトランジットの輸出においてベルギーの通関代理人に業務を依頼しているようだが、常に通関代理人がドイツを起点の輸出国としているかどうかは分からないとしている。また、ベルギー税関当局による輸出確認の情報は、通関代理人より運送業者に伝わるようだが、この情報がドイツの関係機関に伝わっているかは分からないようである。

これらに加えて、ハンブルクの中古車輸出業者への聞き取り調査なども記されている。ハンブルクからは、2013年に170,656台の中古車(乗用車:169,402台、小型貨物車:1,254台)が輸出されたようだが、中古車輸出業者によると、ドイツからアントワープ経由の輸出は、ハンブルクと同等またはそれ以上ではないかとのことだったという。

これらから、Sander et.al.(2017)は、ドイツから他のEU加盟国経由の中古車輸出において、一段階輸出手続きあるいは通関代理人を通すものは、ドイツの税関統計に体系的にカバーされないと結論付けている(p.206)。そして、アントワープのみならず、他の輸出拠点においても同様のことが起きていることを指摘している。

 

5.他国経由の輸出の状況

上記の通り、ドイツの中古車輸出においてアントワープ経由のものは、公式の税関統計に表れる31,387台以外に116,732台の輸出がされている。そして、Sander et.al.(2017)は、他の輸出拠点でも起こりうるとし、いくつかのデータを示しつつ、その数量の推計を試みている。

まず、興味深いデータとして、輸出申告に基づいた税関統計のうち、金額別の台数(乗用車と小型貨物車の合計)がグラフで示されている(p.201)。ここでは100ユーロ以下から100ユーロ単位で3,000ユーロ超まで示されており、数値としては各金額における数量の割合が示されている。

税関統計上の合計で2013年のドイツのEU域外向け中古車輸出台数は、374,030台である。このうち、3,000ユーロ超は全体の42.27%(15.8万台)である。これに対して、57.72%が3,000ユーロ以下である。より細かく見ると、1,000ユーロ以下は36.87%(13.8万台)、1,000ユーロ超2,000ユーロ以下は15.1%(5.6万台)、2,000ユーロ超3,000ユーロ以下は5.75%(2.2万台)である。

車種別では、乗用車(M1)の方が3,000ユーロ以下の割合が高く、61.5%を占める。これに対して小型貨物車(N1)の3,000ユーロ以下の割合は、18.3%である。

これらは税関統計に表れた数値であり、一段階輸出手続きではなく、二段階手続きの可能性がある。3,000ユーロ以下のものは一段階輸出手続きにより輸出されることが多々あることから、統計に表れないものを含めると3,000ユーロ以下の数量は実際はより多いということになる。

次に、税関(輸出拠点)別の数量も示されている(p.206)。ドイツのハンブルクからの輸出が圧倒的に多く、170,656台である。2位は先に示したアントワープであり、31,387台である。これに続くのが、ポーランドのベラルーシ国境沿いのテレスポル(Terespol)、ドイツのブレーメン(Bremen)、ポーランドのウクライナ国境沿いのドロフスク(Dorohusk)であり、それぞれ1万台前後である。

このうち、ドイツ国外の主な税関(輸出拠点)の数量は別途示されている(p.207)。テレスポルは13,582台、ドロフスクは7,640台である。これら以外に、メディカ(Medyka)、チョングラード(Csongrád)、ヒアツハルス(Hirtshals)が上位にあり、それぞれ6,846台、6,044台、5,498台である。

メディカはポーランドのウクライナ国境沿い、チョングラードはハンガリーのセルビア国境沿い、ヒアツハルスはデンマークの北端部にある。アントワープを除いたドイツ国外の輸出拠点の上位15拠点のうち、8拠点がポーランドである。

表4は、ドイツからの中古車輸出で正規の税関統計に表れているもののうち、ドイツ国外経由で輸出された数量を示している。ここでは、3,000ユーロ以下の輸出台数も示している。先述の通り、3,000ユーロ以下の輸出は、一段階輸出手続きの対象になりうるため、税関統計に表れない可能性がある。ただし、3,000ユーロ以下であっても二段階輸出手続きにより輸出されることもあり、それらが統計に反映されていると述べられている。

この表4を見ると、3,000ユーロ以下の割合は、国によってばらつきがあることが分かる。ベルギーが85.5%であるのに対して、ポーランドは7.4%と低い。ポーランド経由の3,000ユーロ以下の輸出は、乗用車に限定すると2.9%とさらに低くなるという。フィンランドとバルト三国(ラトビア、リトアニア、エストニア)の4か国の割合も低い。

ポーランドを含めたこれらの国はロシア、ベラルーシ、ウクライナ向けの輸出拠点であると書かれている。ドイツからロシア、ベラルーシ、ウクライナ向けの中古車輸出の59%、77%、97%は、ポーランド経由である。また、カザフスタン、モルドバ、アゼルバイジャン、モンゴルなどへの輸出もある。

デンマーク、スウェーデン、スペイン経由の輸出も3,000ユーロ以下の割合はかなり低い。デンマーク、スウェーデン経由のものは、ノルウェーやフェロー諸島向けのものであり、車両価値は高いようである。スペイン経由の輸出は中東や東アフリカといった地中海沿岸の国向けである。

ハンブルクやアントワープの海運会社からの引き合いで輸出されるようだが、スペイン経由の輸出とした方が物流的にも経済的にも都合がよいようである。

一方、スロベニア、クロアチア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャ経由は、3,000ユーロ以下の輸出の割合は相応に高い。これらの輸出拠点からは、ジョージア、アゼルバイジャン、モルドバのほか、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビアにも輸出されるようである。

また、3,000ユーロ以下の輸出の割合が極端に高いのはベルギーであるが、その大多数がアントワープ経由であり、その行先は西・北アフリカ、中東である。

表 4 ドイツの他国経由EU域外向けの中古車輸出台数(2013年)

輸出台数(税関統計) 3,000ユーロ以下の輸出台数 3,000ユーロ以下の割合(%) 3,000ユーロ以下のシェアが50%の場合の追加台数 3,000ユーロ以下のシェアが75%の場合の追加台数
ベルギー 31,559 26,987 85.51
ポーランド 53,558 3,972 7.42 45,614 144,786
スロベニア 8,795 4,203 47.79 195 9,573
リトアニア 8,400 527 6.27 7,346 23,092
ハンガリー 8,332 3,269 39.23 1,794 11,920
イタリア 7,923 2,814 35.52 2,295 12,513
クロアチア 7,716 3,862 50.05 0 7,700
フィンランド 5,698 34 0.60 5,630 16,958
デンマーク 5,664 23 0.41 0 0
ルーマニア 4,740 1,817 38.33 1,106 6,952
スウェーデン 4,733 18 0.38 0 0
スペイン 3,453 29 0.84 0 0
ブルガリア 2,806 614 21.88 1,578 5,962
ギリシャ 1,624 220 13.55 1,184 3,992
ラトビア 1,208 73 6.04 1,062 3,332
エストニア 297 2 0.67 293 883
ベルギー以外合計 124,947 21,477 17.19 68,097 247,663

出典:Sander et.al.(2017), Table 45

6.統計に表れない中古車輸出台数の推計

Sander et.al.(2017)は、ハンブルクの運送業者や海運会社、自動車リサイクル会社、税関などの関係者と意見交換を行っている。それによると、東ヨーロッパ、ロシア、東南ヨーロッパ(バルカン半島付近)向けに輸出される中古車の多くは低価格であることが推測され、上記の税関統計に反映されていない可能性があるという。

表4の通り、統計上では低価格車のシェアは低いが、それは一段階輸出手続きにより統計に表れないだけで相応に輸出はされているという説明である。

Sander et.al.(2017)は、これらの国経由の輸出において低価格車のシェアが高いと仮定し、統計に表れない数値を推計している。具体的に、統計に表れない数量を含めた輸出台数のうち、3,000ユーロ以下のシェアが50%の場合、75%の場合に分け、統計に示される数量を差し引くことで、追加分(統計に表れない数量)を示している。それらは表4の第4列、第5列に示されている。

ポーランド経由の輸出を例にとると、表4により正規の税関統計に表れた数量は53,558台であり、そのうちの3,000ユーロ以下は3,972台である。これらから、3,000ユーロ超の数量は49,586台(=53,558台-3,972台)であるとしている。

統計に表れない数量を含めた輸出台数のうち、仮に3,000ユーロ以下の割合が50%の場合、3,000ユーロ以下の数量は3,000ユーロ超の数量と同数であることから49,586台である。これから統計に表れている3,000ユーロ以下の数量3,972台を差し引くと、統計に表れない3,000ユーロ以下の数量は45,614台(=49,586台-3,972台)となる(表4の第4列)。

今度は、3,000ユーロ以下の割合を75%とすると、3,000ユーロ超の数量49,586台の割合が輸出台数の25%となることから、3,000ユーロ以下の数量は148,758台、輸出台数の合計は198,344台になる。

それから統計に表れている3,000ユーロ以下の数量3,972台を差し引くと、統計に表れない3,000ユーロ以下の数量は144,786台(=148,758台-3,972台)となる(表4の第5列)。

この推計の結果、ベルギーを除いた輸出拠点経由の輸出について、統計に表れない数量の合計は、3,000ユーロ以下の割合が50%の場合で68,097台、75%の場合で247,663台となる。これにベルギー(アントワープ)からの輸出11.6万台を加えて、統計に表れないEU域外向けの中古車輸出台数を18.4万台から36.3万台とする。この数値がドイツの年次報告書でも採用されている。

この範囲のうちどの程度にするかだが、Sander et.al.(2017)は明確に示すことができない。表4から75%のシェアの仮定を全ての輸出拠点の国に適用することは無理があるとし、より下方であるとするものの、リトアニア、ポーランド、オランダの税関関係者へのヒアリングから、輸出台数を立証するさらなるデータはないと述べている。

それらの結果、Sander et.al.(2017)は、上記の推計の範囲をベースとしつつ、他国経由もベルギー(アントワープ)と同様の傾向であるとし、税関統計に示される中古乗用車の輸出台数34.4万台にさらに25万台が追加されるとしている。

問題はこの25万台をどのように出したかだが、Sander et.al.(2017)では、このうち11.6万台はベルギー(アントワープ)分、4.1万台が小型自動車分であることが示されるのみで、残りの9.3万台の根拠は示されていない。この点はやや粗削りで強引の印象を持つ。

そのような中、ベルギーの[統計に表れなかった数量116,732台]/[統計に表れた3,000ユーロ以下の数量26,987台]を各国の3,000ユーロ以下の数量に掛け合わせたところ、その合計は9.3万台になった。

この算出方法は正しいのか分からないが、ドイツからEU域外向けの統計に表れない数量は20.9万台となり、ドイツの年次報告書で採用された21万台に一致することが分かる。

 

7.まとめ

本稿では、ドイツの年次報告書で示された最終抹消登録台数、EU域外向け中古車輸出台数について、Sander et.al.(2017)の算出方法を確認した。日本では、輸出抹消登録により輸出された中古車の数量を把握することができるが、ドイツでは、輸出抹消登録どころか、最終抹消登録(日本で言う永久抹消登録、輸出抹消登録の合計)もない。

そのため、最終抹消登録台数とともに、中古車輸出台数を推計する必要がある。Sander et.al.(2017)からその算出の苦労が感じられたが、それでもまだやや粗い印象を持った。

EUは様々な国が加盟しており、制度の運用において国家間で違いがある。阿部(2020)でもそうであったが、今回もその問題が大きいことが感じられた。ドイツから他国経由で輸出されるものについては国家間でその情報伝達の精度に差がありそうである。

EUは国境を越えても制度が同一であり、人やモノが自由に移動しても同じ制度の下で運用できるというメリットがある。しかし、その運用に差がある可能性があり、その場合データに歪みが生じうる。

中古車輸出については、自国の管轄の税関で適切に記録をしたとしても、正確なデータを得られるわけではない。EU域内の他国経由で輸出される場合、他国の税関から情報の伝達が必要である。その精度をEU全ての加盟国で統一的に保つことは、相当難しいのかもしれない。

行方不明の車両台数は、ELV指令が機能しているか否かの1つの判断材料ではある。しかし、その数量を正確に掴むことが困難であるのであれば、見直しの根拠としては十分な材料にならない。

一方で、ヒアリングにより実態に関する情報を得たとしても、偏った主張のケースがあり、これも根拠とするのは危険である。ドイツのみならず、全ての国でデータを用いて検証することの限界を感じる。

行方不明が生じる要因の1つは、使用済み自動車の無償回収制度にある。この制度により放置車両は起きないと考えられるが、公式に認定されていない処理施設であっても使用済み自動車を有償で買い取ることはできる。

また、EU域内で事実上国境がない中で、自動車は自由に移動することもその管理を難しくする。ELV指令により制度は統一的に整備されているものの、その執行に差があることで、取り締まりの緩いところに使用済み自動車が流れうる。

このような構造はシンプルに説明でき、理論をベースにした議論があってもよいように思うが、このままさらにデータを解明するという困難な方向に行くかどうかである。この先どのように議論が進むかは興味あるところである。

※本研究は高橋産業経済研究財団令和2年度研究助成の成果の一部である。

 

参考文献

  • Federal Ministry for the Environment Nature Conservation and Nuclear Safety (2017), “End of life vehicle reuse/recycling/recovery rates in Germany for 2015”, https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Abfallwirtschaft/jahres bericht_altfahrzeug_2015_en_bf.pdf
  • Knut Sander, Lukas Wagner, Joachim Sanden and Henning Wilts (2017), Development of proposals, including legal instruments, to improve the data situation on the whereabouts of end-of-life vehicles, Environmental Research of the Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation, Building and Nuclear Safety Project No. (FKZ) 3714 33 315 0, Report No. (UBA-FB) 002519/ENG

https://www.umweltbundesamt.de/sites/default/files/medien/1410/publikationen/2017-06-08_texte_50-2017_verbleib-altfahrzeuge_eng.pdf

  • 阿部新(2020)「EUおよびドイツにおける抹消登録台数の内訳の現状」『速報自動車リサイクル』,https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/9659
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