第143回 ドイツの使用済自動車市場と違法処理の構造

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

EU(欧州連合)では、使用済自動車に関する指令(Directive 2000/53/EC, 以下「ELV指令」)の見直しの議論がされている。その論点の1つは、行方不明の自動車の問題である。阿部(2021a)においてはEUおよびドイツの抹消登録台数とその内訳を示し、行方不明の車両がどの程度発生しているかを紹介した。そこでは、Mehlhart et al.(2017)やドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省の年次報告書で示されたデータに基づいている。そして、阿部(2021a)は、ドイツでは様々な手段を用いて「行方不明の車両の行方」をEUよりも解明しているとする一方で、Mehlhart et al.(2017)において盗難、違法処理、違法輸出、登録制度の不備などが指摘されていることを紹介し、この詳細についてはさらなるサーベイおよび実態調査が必要であるとする。

また、Mehlhart et al. (2017)では、ドイツの抹消登録台数についてSander et.al. (2017)の考え方に基づいて算出したとあったことから、続く阿部(2021b)においてはSander et.al. (2017)をサーベイし、その算出の考え方を示した。そこでは抹消登録台数のみならず、統計に載らない中古車輸出台数の推計方法についても確認した。一方で、ドイツ国内で使用済自動車として違法に処理される可能性もあるが、阿部(2021b)においてはあまり重きを置いていない。

そのような中、2022年11月、ドイツ環境庁は抹消登録後の行方不明の自動車、とりわけ違法処理に関する調査レポートを公表している(Zimmermann et.al, 2022)。同レポートはSander et.al. (2017)をベースとし、行方不明の車両が違法に解体または輸出されているとし、その実態について踏み込み、その費用構造を分析している。そして、使用済自動車の違法な処理や輸出が生態系や経済に与える影響を評価して対策の方向性を示している。本稿では、この調査レポートであるZimmermann et.al (2022)をサーベイして、ドイツにおいて使用済自動車の違法処理がどのように捉えられているのかを示すこととする。

2.抹消登録後のフロー

まず、公式に認定処理施設に引き渡される使用済自動車の台数を確認する。これについて、Zimmermann et.al (2022)では認定処理施設(解体工程)数とともに2004年から2018年までの推移をグラフで示している。同グラフの出典に示されているドイツ連邦統計局のウェブページを見ると、使用済自動車台数、認定処理施設のデータが2021年まで更新されている(Statistisches Bundesamt, 2023)。図1はこれを加えて並べたものである。

これによると、ドイツの使用済自動車台数は2009年に178.4万台と突発的に多いが、他の年は50万台前後である。この点は阿部(2021a)でも確認されたことである。2018年から直近4年間は減少傾向にあり、2021年は2004年以降の範囲で最も数量が少なく、40万台となっている。

周知の通り、日本の使用済自動車台数は年間で300万台を超えている。過去10年間(2012年度~2021年度)の引取工程の引取報告件数では、最も多くて343万件(2013年度)、最も少なくて304万件(2021年度)である(自動車リサイクル促進センター,2022)。時系列的には増減を繰り返しており、ドイツと同様に2018年以降は減少傾向となっている。いずれにしろ、日本の水準からするとドイツの規模は小さく、日本の6分の1(16.7%)を下回るものとなっている。

図にはないが、ドイツ連邦統計局の資料では、使用済自動車の発生量の重量(1000トン)データも示されている。そして、そのうちのドイツ国外で発生したものも示されている。これを見ると、解体工程において国外で発生した使用済自動車の回収量は1%も満たない。また、破砕工程においては多少そのシェアは高いが、それでも2%~7%の範囲である。これらを見ると、ドイツの使用済自動車の発生源はほぼ国内であると言える。

 

図 1 ドイツの使用済自動車台数(単位:千台)と認定処理施設数(単位:箇所)の推移

出典:Statistisches Bundesamt(2023)より作成

注:いずれも解体工程のもの

3.抹消登録台数の内訳

ドイツ環境庁のレポートでは、2018年に永久抹消登録となった自動車の行方について整理している(pp.75-76)。これによると、統計に計上される中古車輸出台数は236万台(EU域内212万台、EU域外24万台)、解体時に認定処理施設に引き渡される使用済自動車台数は565,033台(国内560,455台、輸入4,578台)と示されている。そして、統計上のギャップ、すなわち行方不明の車両数を36.3万台としている。

これらを単純に足し合わせると、328.8万台であり、そのうちの中古車輸出台数、使用済自動車台数、行方不明車両数の割合はそれぞれ72%、17%、11%である。阿部(2021a)では2017年までの抹消登録台数の内訳を示したが、このうちの行方不明の車両の割合は概ね10%~20%であり、上記の2018年も同様の傾向となっている。

2018年の行方不明車の36.3万台の行方について、同レポートでは違法輸出(illegal exports)か、違法解体(illegal dismantling)と表現されているが、この内訳がやや複雑である。まず、違法輸出は実態調査に基づいて行方不明の車両数の20%とし、7.26万台とする。そうなると国内の違法解体はそれから差し引かれた29.04万台になる。一方、先に解体時に認定処理施設に引き渡される使用済自動車台数は56.5万台としたが、これには部品取りされた使用済自動車の7.26万台を含む。つまり、公式の統計で56.5万台を使用済自動車として把握しているものの、このうち7.26万台は個人や非認定処理施設が違法に解体したものになる。違法解体の数量は先に29.04万台と示したが、これに7.26万台が加えられ、結果的に36.3万台になる。これに対して完全な適法解体は56.5万台から7.26万台を差し引いた49.24万台になる。非常に複雑となっているが、同レポートではこれらから49.24万台(適法解体)+36.3万台(違法解体)+7.26万台(違法輸出)=92.8万台を管理すべき使用済自動車であるとする。

使用済み後のフローについては、認定処理施設からのものは国内のシュレッダー業者か、廃車ガラ(解体自動車)輸出と示されている。このうち、国内のシュレッダー業者向けが94%(535,447台)であり、輸出は6%(36,216台)と少ない。中古車輸出が多いことから廃車ガラ輸出も多いのではないかと単純に思ってしまうが、中古車と使用済み後の市場の範囲は異なる。また、他国からの廃車ガラの輸入についても多くはなく、22,900台と輸出よりも少ない。発生源の大多数は国内であることは前節でも確認されたことである。なお、非認定処理施設からの廃車ガラの行方は数値では示されていないが、大半は最終的にシュレッダー工場でリサイクルされるとする。それは混合スクラップとして引き取られる可能性もあると言及されている。さらに、より少ないが、部分的に解体された使用済自動車がスペアパーツや廃電子機器などとともにコンテナで輸出されているとする。

4.ドイツの解体業者の規模

上記で示したように、ドイツでは管理すべき使用済自動車台数(92.8万台)のうち、適法解体は49.24万台である。つまり、半分近くが違法解体を伴っている。そのような状況で、合法的に解体している者は、違法解体により仕事が奪われているということにならないのだろうか。

先に示した図1では、解体工程における認定処理施設の数も示している。これによると、ドイツの認定処理施設は1000~1300か所になる。日本では、解体工程における登録事業所数と稼働事業所(移動報告実施事業所)数の2つの数値があるが、このうち登録事業所で4800~6000か所程度、稼働事業所で3200~4000か所程度である(自動車リサイクル促進センター,2022)。後者の稼働事業所の数値からドイツの解体工程における認定処理施設は日本の3分の1程度の数になっている。

ドイツの認定処理施設数を時系列的に見ると、図1にあるように、2010年までは増加傾向にあったが、この年の1263か所をピークに減少に転じていることがわかる。直近の2021年は最も少なく、ピーク(2010年)の82%の1030か所となっている。図にはないが、破砕施設についても似たような傾向であり、2011年までは増加傾向であり、2011年および翌2012年の62か所をピークに減少し、直近の2021年はピークの73%の45か所となっている。

解体事業所の減少については、日本も同様である。自動車リサイクル促進センター(2022)を見ると、解体工程の登録事業所数は、過去10年間(2012年度~2021年度)では2012年度の6060か所が最も多く、それから減少し、2021年度 は4800か所と1260か所の減少となっている。稼働事業所においても2012年度の4065か所が最も多く、その後減少し続け、2021年度は3233か所である。破砕工程の登録事業所数、稼働事業所も似たような結果となっている1)。いずれにしろ、ドイツは日本の3分の1程度の水準になる。

ドイツ環境庁のレポートでは、2018年には、565,033台の使用済自動車を1154の認定処理施設が処理をしたことから、年間処理台数は1施設あたりの平均で490台とする。先に示した使用済自動車台数を用いて2004年から2020年までの1施設あたりの平均年間処理台数を算出すると、イレギュラーの2009年(1433台)を除けば、ほとんどの年で1施設あたりの処理台数が300台後半から400台前半であり(中央値は407台)、2018年の490台は2009年を除けば最も多い。

日本について、先に示したデータを用いて算出すると、1事業所(稼働事業所)あたりの使用済自動車件数は2016年度まで900台弱、2017年以降は1000台前後である。つまり、ドイツの解体業者は日本の2分の1を下回る水準の規模である。ただし、ドイツの潜在的な使用済自動車で考えると、日本の水準に近くなる。潜在的な使用済自動車台数(92.8万台)から1施設当たりの年間処理台数を算出すると804台である。違法解体があるために処理台数が少ない、という見方はできる。

ドイツ環境庁のレポートでは、認定処理施設は規模や事業の軸が異なり、多様であると記されている。そのような中で、使用済自動車の処理台数においても、年間で250台未満から数千台レベルもあるという。同レポートでは、2013年の数値として、使用済自動車の処理台数規模別に解体処理施設数を示している。表1はこれを整理したものである。これを見ると、年間250台未満という小規模の解体施設が64%も占めている。

このような事業規模の多様性は日本でも同様である。自動車リサイクル促進センター(2022)を見ると、解体工程における年間引取件数の規模別に事業所数が示されている。その区分は1~10件、11~100件、101~1000件、1001~10000件、10001件以上というものであり、ドイツとは区分方法が異なるが、このうち年間で1~10件の事業所は全体の10%前後、11~100件の事業所は全体の25%~30%程度であり、日本でも小規模の事業所が一定数存在することは確認できる。これらが解体事業を専業としているかどうかである。また、データは事業所数であるため、同一の企業であっても事業所ごとにカウントされ、それによって実績の少ないところもあるかもしれない。

ここで日本の2013年度の数値を用いて、1000台(件)を境として日本とドイツを比較してみたい。表1からドイツでは年間処理台数が1000台以下の解体施設数は92%にもなる。これに対して日本では84%である2)。日独ともに小規模の事業所が圧倒的に多いということになるが、ドイツは日本以上に多い。処理台数において年間1000台(件)以下の解体施設数のシェアはドイツで48%を占めるのに対して、日本は16~19%程度である。

ドイツ環境庁のレポートでは、事業の軸についても多様であることが言及されている。具体的には、補修用新品部品の販売、中古車販売(サルベージ車を含む)、自動車修理、レッカーサービスやコンテナサービス、金属販売の事業があげられている。ドイツにおいて、全体的に使用済自動車の発生量が多くない中で、解体事業を専業とせず、部品販売や中古車販売業、整備・修理などと並行に部分的に解体事業を行っている可能性もある。これは日本でも相応に存在すると考えられる。なお、ドイツでもシュレッダー事業者は、本業に加え、解体事業も行うことがあるとされている。

そのような中で違法解体されてきた使用済自動車が合法的なルートに流れることで産業構造がどのように変わるのかである。1つは処理台数が増えることで個々の事業者の規模が拡大することが想定される。先に示したように潜在的な使用済自動車台数(92.8万台)から1施設当たりの年間処理台数を算出すると804台と大幅に増える。ただし、整備や中古車販売などのメインの事業を持っている者は、発生台数が増えたからと言ってそのまま処理台数を増やすとは限らない。経営を転換し、解体事業に本腰を入れることになるかどうかである。あるいは、整備や中古車販売業者の処理台数はそのままで、解体を専業に行っている者のみが処理台数を増やすことも想定される。一方で、処理台数が増えることで認定処理施設の数が増えるという方向もある。非認定処理施設が認定処理施設に転換するか、あるいは制度が機能することで新規参入が促されることもある。その結果、平均処理台数はあまり変わらない可能性もある。

 

表 1 ドイツにおける使用済自動車の処理台数規模別の解体処理施設数

年間処理台数 解体施設数 シェア(解体施設数) シェア(処理台数)
1~250台 762 64% 15%
251~500台 193 16% 14%
501~750台 98 8% 12%
751~1000台 43 4% 7%
1001~1250台 22 2% 5%
1251台~1500台 22 2% 6%
1501台~2500台 33 3% 13%
2501台以上 23 2% 29%
合計 1196 100% 100%

出典:Zimmermann et.al (2022)より作成

 

5.違法解体、違法輸出

ドイツ環境庁のレポートでは、関連の先行研究や裁判の判例のほか、現地調査により違法解体の関係者のタイプを整理している。現地調査では、市場関係者や所轄官庁のヒアリング、衛星画像の評価などにより、65件の事例を特定している。その際に、GESA(Gemeinsame Stelle Altfahrzeuge)と呼ばれる認定処理施設の情報管理システムや個々の企業のホームページ、インターネット通販サイトのeBayを用いてその所在を確認している。また、33件の現場訪問も行い、当事者との対話も行っている。加えて、監督行政や警察、税関のほか、解体業者や物流業者へのインタビューも実施している。これらの調査の詳細やその精度はわからないが、違法解体についてこれだけ精力的に調査をすることは多大な労力を要すると思われる。

これらの結果、いくつかのことが明らかになっている。まず、違法解体の実行者だが、容易に想像できるように事業者のほか、個人も含まれる。個人は趣味やコレクションの一環で解体を行ったり、またそれらのサークル、コミュニティにより行われたりする。そこでは、小規模な改造のほか、主にインターネットのマーケットプレイス経由で販売を目的とした車両の解体、部品取りも観察されるという。判例により、ほとんどの場合、保管場所と作業場所は野ざらしであり、使用済自動車政令の要件に従った環境負荷物質の除去設備はないという。判例があるということは、相応に問題となっており、取り締まりがされていることが想像できる。

同レポートによると、事業者においてはその形態に幅があるとする。違法な解体を行う事業者の主たる事業活動は、中古車売買や輸出、自動車整備工場、補修用部品販売、自動車リサイクルなど様々である。これらの主な活動の中で、程度の差こそあれ、使用済自動車の解体は行われている。つまり、機会に応じて発生する単発的な解体から大規模な組織的な解体活動まで多岐にわたる。単発的な解体の例として、自動車が経済的に修理不可能と判明した場合の自動車整備工場によるものや、自動車が長期にわたって販売不可能と判明した場合の中古車販売店によるものなどが言及されている。

事業規模も同様に多様である。調査では、約半数の事業者が従業員数3〜5人で、敷地面積が2千〜5千平方メートルの規模であるという。また、約半数の事業者が50台以上の車両を敷地内に駐車している。違法な解体行為をするといっても、十分な設備を持つものもあるという。それは自動車整備工場であり、そのような事業者が解体事業を行っている。一方で、十分な設備を持たない者も存在する。

同レポートでは、違法解体を4つのタイプに分けている。まず、事業者として登録しているか否かで区分しており、タイプ1は事業者として登録していない個人、コレクターやそのコミュニティ、タイプ2~4は事業者として登録している者とする。タイプ2と3は、事業活動において適切な設備が求められる整備工場、ガレージであり、タイプ2はその中でも十分に設備が整っている事業者で、タイプ3はその設備が不十分な事業者である。タイプ4は事業者登録をしているが、中古車販売店やタイヤ販売店など、事業において適切な設備が求められない者を指している。なお、ここでの適切な設備として、冷媒(フロン)や油・液類の回収装置、建屋、舗装などが示されている(p.70, Table 14)。また、適切な設備を持たないリサイクラーはタイプ3の中に含まれている。

同レポートでは、実態調査や関係者へのヒアリング、判例の評価に基づいて、違法解体の使用済自動車台数のうち、どのタイプが多いかを示している。それによると、タイプ4が50%と最も多く、他はタイプ1が5%、タイプ2が20%、タイプ3が25%となっている。つまり、違法解体は個人ではなく、大多数が事業者であり、中でも設備を要しない中古車販売店やタイヤ販売店などが多いということになる。また、タイプ3と4は十分に設備を整備していないことから不適正な処理が懸念されるが、その割合は併せて75%と多くを占める。

このような違法解体を行う者は、新聞広告、オンラインマーケットプレイス、サルベージオークション、個人やその知人からの購入、中古車販売店からの購入、レッカーサービス、ガレージや中古車販売店での中古車の転用、名刺の配布など様々な手段で車両を入手すると記されている。そして、購入後、違法な解体(または輸出)が行われる。解体された車両は、直接またはスクラップ工場を経由して、認可された破砕工場に送られる。あるいは、部分的に解体された使用済自動車が認定処理施設に持ち込まれることもある。認定処理施設を経由するルートは、破砕工場への持ち込みに加え、関係者の調査で関連ルートとして名前が挙がっているとする。違法な解体業者の中には、回収した使用済自動車を公共スペースに放置する者もいるという。

輸出については、現地調査やヒアリングの結果、行方不明の車両(36.3万台)の17%と推定されるとする。この結果、行方不明の車両における違法解体の割合は83%になり、タイプ1が4%、タイプ2が17%、タイプ3が21%、タイプ4が42%になる。これらの数値の信ぴょう性は定かではないが、違法処理の割合を数値で示すという点は興味深いところである。

違法輸出は台数で示すと7.26万台であり、ドイツの中古車輸出台数(236万台)と比べるとわずかである。同レポートでは、追加貨物を伴う車両の輸出が制限されたことから、修理不能な車両の輸出は、ほとんどの場合採算が取れていないなどと記されている。詳細は今後の課題だが、車両の追加貨物として使用済自動車を輸出していたことなどが想像できる。また、東欧やバルカン諸国への使用済自動車としての輸出も輸出入業者が自動車運搬トレーラーで運ぶことになり、数量はわずかであると示されている。確かにその費用をかけてまで輸送するほどの収入があるかというと疑問であり、部品もドイツで解体、回収してから輸送したほうが効率的であるように思える。そのような事情もあり、ドイツ国内では廃棄物と定義されうる車両であっても、中古車として申告され海上輸送されるようである。それらは結果的に仕向け国の道路で使用されるため中古車になるのだが、このような事例からいかにして使用済自動車と中古車の範囲を設定するかという課題があると示されている。

6.解体事業の収入と費用

ドイツ環境庁のレポートでは、ドイツの解体業者の収入と費用に関する分析を行っている。その際に解体業者であるRETEK社において主に2019年と2020年についてデータ収集が実施されている3)。そして、他の調査結果にて情報を補いつつ、まず年間2,000台の使用済自動車の処理能力を持つ水準の解体業者のモデル化が行われている。そのうえで、ドイツの平均的な規模である年間500台の解体業者をベースラインシナリオの規模として設定している。ベースラインとは使用済自動車政令で要求される最低限の解体を行うものとしているが、そこでは内燃機関の自動車を扱い、プラスチックやガラスだけでなく、補修用部品や金属類の分別回収はしない(廃車ガラとして売却する)という条件を置いている。そのうえで、プラスチックやガラスを回収した場合、補修用部品、金属類の分別回収をした場合、電気自動車や天然ガス自動車の解体をした場合などの収入、費用を算出している。

費用については、解体や各種物品の回収に伴う人件費がある。当然ながら分別する物品の種類が多くなればなるほど人件費がかかる。そこには、法により適正な回収が求められるものもあれば、そうでないものもある。いずれにしろ、収入に対して費用が大きければ適正に回収するインセンティブは弱まる。ベースラインシナリオでは、補修用部品、金属類の分別回収は想定しておらず、鉛バッテリー、オイルフィルター、火薬物、油や液類、冷媒(フロン)、タイヤの回収が想定されている。

これら解体や回収作業に伴う人件費のほかには、使用済自動車の購入費用、システム費用(事業登録に関わる手続き、専門知識の提供、定期的な検査など)、減価償却費、保険費用(賠償責任保険や工業所有権保険など)、税(自動車税、固定資産税、事業税など)、廃棄物処理費用、物流費、管理費(伝票管理、破壊証明書発行、データ管理、広告宣伝など)、清掃費などがあげられている4)。往々にして解体作業費用と部品・金属類の売却収入のみを算出しがちだが、間接的な費用を含めており、非常に興味深い。

上述の通り、ベースラインシナリオでは、補修用部品や金属類の分別回収を想定していない。これに対して補修用部品・金属類分別回収シナリオでは、200kgの補修用部品の回収と広範囲な金属の分別が含まれるとする。2020年にRETEK社が実施した調査では、調査対象の認定処理施設の71%が補修用部品の回収を志向するとある。その時の資源価格にもよるが、補修用部品・金属類分別回収シナリオのほうがドイツでも一般的であると言える。これについて日本がどの程度なのかはわかりかねないが、興味深いところではある。

ベースラインシナリオと比較して、補修用部品・金属類分別回収シナリオの最も大きな追加費用は、人件費の増加である。具体的には、補修用部品の回収に112分、金属類の分別に15分かかるとし、それにより1台あたり136ユーロの費用増となるという。また、保険と税の増加のほか、使用済自動車の買い取り価格は30ユーロだったものが80ユーロに上昇する。補修用部品と金属類は、1台あたりそれぞれ500ユーロ、84ユーロの追加収入を生むが、廃車ガラの売却収入は重量が減ることから58ユーロ減少するとする。この結果、補修用部品・金属類分別回収シナリオにおいて、年間500台の使用済自動車の処理能力で使用済自動車1台あたり平均248ユーロの利潤が得られるとする。

以下の表2はベースラインシナリオと補修用部品・金属類分別回収シナリオの収入、費用を整理したものである(p.58, Table 12)。

 

表 2 ドイツの認定処理施設における使用済自動車1台あたりの収入と費用(単位:ユーロ)

収入、費用の内容 ベースライン 補修用部品・金属類分別回収
システム費用(事業登録、検査など) -9 -11
設備・装置投資、減価償却費 -48 -58
リース -2 -2
保険 -7 -8
-2 -74
その他(証明書発行、データ管理など) -28 -30
汚染物質除去、回収 -162 -283
廃車ガラ置場への輸送・荷積み -1 -1
回収部品、資源の売却 239 714
合計(利潤) -20 248

出典:Zimmermann et.al (2022)

 

7.違法解体による費用削減

違法解体の実行者は、認定処理施設よりも費用を削減することができる。同レポートでは、補修用部品・金属類分別回収シナリオの利潤(248ユーロ)を比較対象として、違法解体によりどれだけ利潤を増やすことができるのかを算出している。補修用部品・金属類分別回収シナリオは認定処理施設の利潤を最大化することから、違法解体の実行者においても同様であるというスタンスである。なお、補修用部品と金属類の売却収入に関しては認定処理施設と同等であるとする。

そして、同レポートでは、それぞれのタイプの平均年間処理台数を想定し(タイプ1:2台、タイプ2:50台、タイプ3:200台、タイプ4:300台)、それに基づいてそれぞれがどのような費用を削減するかを示している。先にタイプ3やタイプ4は整備工場やガレージ、中古車販売、タイヤ販売などが想定されるとしたが、数量的に多く、解体事業を専業としているようにも思える。

タイプ1の個人は、システム費用、保険料、税(固定資産税を除く)、土地・建物に対する投資費用は発生しないとしている。設備投資額についても、認定処理施設と比べると大幅に削減され、重機やフォークリフト、冷媒(フロン)回収装置、その他排水技術なども含まれない。電動クレーン、コンプレッサー、昇降台は想定しているという。人件費は、同等の処理時間を想定するが、ここでは発生しないとしている。この結果、個々の費用がどの程度削減されたかは数値では示されていないが(グラフとして視覚的に表示されている)、利潤は538ユーロとなっており、認定処理施設の利潤(248ユーロ)よりも290ユーロも多くなっている。

次にタイプ2だが、ここでは整備工場やガレージなどの事業者が想定され、修理ができなくなった自動車などをしばしば解体する状況であり、メインの事業活動ではない。そのため、解体行為に対して、システム費用、管理費用、投資、資産関連費用および保険は割り当てられていないとする。エネルギーや水道料金は半分の金額とし、既存の設備も解体作業に割り当てていない。人件費は認定処理施設と同じ賃金が適用されるが、一部の作業は省略される。破壊証明書の発行、リサイクル・回収率の算定など、使用済自動車の解体に関連する管理業務も行われない。また、非生産的な時間を少なく想定しているため、時間単価は低く、効率的であるとしている。これらの結果、タイプ2の利潤は554ユーロとなっており、タイプ1よりもさらに利潤が多くなっている。

タイプ3とタイプ4についても同様に様々な費用が削減されている。システム費用(商工会議所への加入、政令に基づく認定手続き、人材教育、検査など)は発生しない、もしくは認定処理施設に比べて大幅に低い。また、投資費用も認定処理施設に比べて大幅に削減される。処理費用についてはタイプ2の事業者と同様であるとする。これらの結果、タイプ3が501ユーロ、タイプ4が518ユーロになる。タイプ2よりも利潤は低いが、認定処理施設の利潤(248ユーロ)よりも十分に多く、2倍を超える水準である。

適法解体に比べて違法解体の費用が小さく、利潤が大きいことは、理論上は当然に想定できる。とはいえ、それがどの程度なのかはつかみにくい。ドイツ環境庁のレポートは、使用済自動車の処理にかかる作業を細かく設定し、その作業時間に基づいて、具体的な数値を示したことで意義が大きい。しかも不適正処理の費用のみならず、諸手続きに要する費用も含めている。これらは貴重なデータである。

8.経済効果と政策の方向性

同レポートでは、上記のようなミクロ的な費用分析とは別に、マクロ的な視点から社会全体の付加価値についても計算している。そこでは、違法解体、違法輸出が全て認定処理施設に流通した場合の付加価値の増減を示している。具体的には、(1)違法解体サービス、(2)適正な廃棄物処理・リサイクルサービス、(3)無申告労働、(4)使用済自動車の輸出で生まれる・または失う付加価値が示されており、使用済自動車が認定処理施設に流通する仕組みにすることで、これらがどの程度変化するかを示している。

まず、(1)については違法解体サービスで相応の付加価値はあったが(1.8億ユーロ)、それがゼロになる。そして、その分が認定処理施設に流通することで(2)の付加価値が増えるとする(2.84億ユーロ)。また、(3)については無申告労働により生まれていた5,100万ユーロは適法解体によりゼロになる。(4)については輸出により600万ユーロの付加価値を失っていたが、国内で循環することでその分が増加になるとしている。これらの結果、合計で5,900万ユーロの付加価値が増加するとする。1ユーロ=140円としても826億円にもなる。

当然ながらこの5,900万ユーロは誰かが追加的に支払うことになる。同レポートでは、消費者、国、生産者(自動車メーカー)が支払う場合の経済効果を算出している。その結果、ドイツ国民経済において年間2,800万〜8,500万ユーロのさらなる付加価値を生み出す可能性があるとする(消費者の場合:3,700万ユーロ、国の場合:8,500万ユーロ、生産者の場合:2,800万ユーロ)。また、300名~1,200名の雇用創出および400万~1,400万ユーロの社会保障費の増加、220万〜940万ユーロの税金の増加になるとする。さらに、自動車メーカーが5,900万ユーロを負担する場合、新車1台あたり約20ユーロの追加費用に相当することになるとも言及している。同レポートではこの「新車1台あたり約20ユーロ」を太字で強調しているが、日本円で数千円であることからその負担は大きくないとでも言っているように思える。

加えて、同レポートでは違法処理による環境への影響とその軽減について論じている。具体的には、廃油の放出による土壌汚染や水質汚染、冷媒(フロン)の放出による地球温暖化への影響が言及されている。そして、その費用は年間約4000万ユーロにのぼるとする。このうち冷媒の放出が約3,400万~4,100万ユーロと大多数を占めており、土壌汚染の除染費用は約100万ユーロとしている。使用済自動車が認定処理施設に流通することで、これらの費用が軽減される。

日本ではシュレッダーダストの不法投棄が社会問題になったように、分別後の不要物の不法投棄は使用済自動車を巡る環境問題の中でも重きを置かれる。また、解体工場での廃油や廃液の垂れ流しもよく指摘されてきた環境問題である。これらは上記では土壌汚染に含まれる。ただし、同レポートの限りでは、冷媒と比べると土壌汚染による社会的な負担は大きくはない。しかも、ここでは想定されていないが、違法解体のみならず、認定処理施設が冷媒を放出する可能性もあり、仮にそうであれば冷媒の環境負荷はさらに大きい。地球温暖化については、視覚的にその重さが伝わらないということもあるだろうが、この重さは改めて認識しておく必要がある。

これらの付加価値の喪失や環境負荷が起きている中、課題は適正に流通する社会へどのように移行するかになる。同レポートでは、最後にその方向性を示している。

まず、法制度の執行(エンフォースメント)の改善を求めている。その課題として、違法解体の主体が個人や様々な業種で多様であり、不明確であることがあげられている。また、フェンス、門の施錠、番犬などで敷地内に入れないことや敷地内の車両の所有者が不明であり、責任者が特定できないことなどの問題も指摘されている。さらに、違法か否かの判断の基準が難しいこと、取り締まりの人材の不足なども言及されている。それに対して、違法解体の疑いがある場合の通報を簡素化する仕組み、効果的な執行のために権限を与えられた関係者の人員配置の改善、執行における地域内の様々な当局間の協力の必要性が言及されている。

次に、同レポートでは使用済自動車と中古車の区分についての検討を求めている。この問題はかねてから指摘されているようだが、依然として問題となっているようである。そのような中、同レポートでは、「スペアパーツの取り外し」の側面が中心的な基準と見なされていると述べている。そして、同レポートではこの「スペアパーツの取り外し」を廃棄物の状態の法的な明確な指標として確立することが推奨されるとする。

日本でも自動車に限らず、廃棄物の適正流通においてはこれらの指摘はされてきた。よって新しい議論とは思えない。産業廃棄物全般の不法投棄については投棄実行者のみならず、排出者の責任を強化することで対応してきた。その際に行政の監督の難しさが指摘され、発見や取り締まりにおいて郵便局や警察などとの連携もされてきた。昨今ではGPSや衛星画像などを用いてその行方が特定しやすくなっている。

使用済自動車の判別についても解体行為という軸で議論がされてきた。中古車として販売可能なものも価値により使用済みとすることがある。また、事故車のように自走できないものであっても修理により中古車として再生することもある。年式により判別すると、まだ使用できるものを廃棄するということになる。それらから、事実上、取引時点では判別できないのであり、これらの議論は自動車リサイクル法施行後の間もない時期にされてきた。現在でも解体業者は自動車販売業者やオークションの出品者などから使用済自動車を仕入れているが、制度上は中古車であり、違和感は残る。購入の時点では使用済自動車か否かを判別できず、正確に捉えるとなると、結局は解体行為を以って判別せざるをえないのである。

ドイツ環境庁のレポートを見ると、解体行為を以って使用済自動車や解体業者を判別することを前提に行政や関係者のモニタリングの強化により、使用済自動車を適正に流通させるという方向である。その労力に対してそれがどの程度効果的なのかである。法の網をくぐり、長年いたちごっこを繰り返した日本の産業廃棄物処理行政の苦労を想像してしまう。

同レポートでは、上記のような方策のほかに、オンラインマーケットプレイスの運営者への行為義務の必要性を言及している。これは使用済自動車そのものや中古部品において違法な解体活動の中心的な販売経路となっていることを受けている。具体的には、出品された車両が使用済自動車か否かを確認する義務を運営者に課すことを提案している。オンラインマーケットプレイスは取引の場であり、運営者は取引当事者ではないため、排出者および占有者の責任という従来の考え方とは異なった考え方になる。トレーサビリティを含めて、プラットフォームの運営者の位置づけについては日本でも参考になるだろう。

これら以外の使用済自動車の違法処理対策として破壊証明書の強化と拡大生産者責任の強化があげられている。破壊証明書については、長年にわたって様々な関係者によって要望があったようだが、自動車の登録・抹消登録制度と組み合わせて初めて効果を発揮するものとしている。ここでは、Kitazume et al. (2020)などの文献が示されているが、これを見てみると一時抹消には破壊証明書が必要ではないなどの現状の課題が言及されており、一時抹消と永久抹消の区分、一時抹消の期間の設定、永久抹消の条件設定などが提案されている。

後者の拡大生産者責任の強化については、長期的な持続可能性へのアプローチとして位置づけられている。そこには、特にガラスやプラスチックの解体など、環境に配慮した追加的な解体作業に対する金銭的な保証を提供することが言及されている。この負担を自動車メーカーに課すということであり、これまでのEUの拡大生産者責任の範囲を広げるものと言及されている。生産者、消費者(ユーザー)の負担論は需要曲線、供給曲線の傾きに関わるため、これ自体を議論することはあまり生産的とは思えないが、いずれにしろ前もって負担をするという方向は望ましいと言える。ただし、長期的な方向性という位置づけであり、実現する道は遠い印象を持つ。

 

※本研究はJSPS科研費 JP 22H00763の助成を受けたものです。

1) 破砕工程における登録事業所数は2012年度の1,352か所に対して2020年度は1,201か所であり、2020年度/2012年度は89%である。移動報告実施事業所数は2012年度の1,029か所に対して2020年度は874か所であり、2020年度/2012年度は85%である。

2) 日本ではこの規模の事業所数は緩やかに縮小しており、2012年度~2014年度は全体の84%を占めていたが、2020年度~2021年度は80%になっている。

3) RETEK社について調べてみると、ドイツ北西部のニーダーザクセン州にあり、オランダに近い。

4) ベースラインシナリオの具体的な作業内容と平均処理時間は以下の表に整理される。これによると、使用済自動車1台あたり平均処理時間の合計は148分である。そして、レポートではそれを踏まえて人件費を掛け合わせ、費用の合計を163ユーロと示している。これはあくまでもベースラインであり、補修用部品や金属類を分別回収するなどで費用は変わってくる。同レポート内では費用に関して様々な項目、数値があり、これらの数値がどのように対応しているかは今回のサーベイでは十分に確認できなかった。さらなる精査が必要である。

表 3 ベースラインシナリオにおける使用済自動車1台あたりの作業内容と平均処理時間

作業内容 平均処理時間(分)
使用済自動車の取得、評価、ラベル付け 16
鉛バッテリーの取り外し 6
オイルフィルターの取り外し 2
火薬、爆発物の除去、無害化 15
オイル除去(エンジン、ギアボックス、ステアリングギア、ディファレンシャル(該当する場合)、トランスファーケース) 18
ショックアブソーバーオイルの除去 16
冷媒(フロン)の除去(車体と設備の接続と取り外しのみ) 5
その他液類の除去(ブレーキフルード(クラッチスレーブシリンダーを含む)、冷却水、ウィンドウォッシャー液、燃料(6分を平均値と見なす)) 24
ホイールの取り外し 14
リムからのタイヤの取り外し 10
触媒コンバーターの取り外し 8
廃車ガラの保管場所へ運搬、荷積み 5
事務作業(破壊証明書の発行、データ管理、文章作成など) 9
合計 148

出典:Zimmermann et.al (2022)

 

 

参考文献

  • 阿部新(2021a)「EUおよびドイツにおける抹消登録台数の内訳の現状」『速報自動車リサイクル』(100),46-58
  • 阿部新(2021b)「統計に表れない数量をどのように示すか:ドイツの中古車輸出台数等の算出方法」『速報自動車リサイクル』(100),60-71
  • 自動車リサイクル促進センター(2022)『自動車リサイクル データBook 2021』自動車リサイクル促進センター
  • Kitazume, R. Kohlmeyer, and I. Oehme (2020), “Effectively tackling the issue of millions of vehicles with unknown whereabouts. European priority measure: establishing leakage-proof vehicle registration systems”, Scientific Opinion Paper, Dessau-Roßlau, https://www.umweltbundesamt.de/sites/default/files/medien/1410/publikationen/sciopap_uba_elv_measures_to_combat_illegal_dismantling_2020_06_29.pdf, accessed on 30 March 2023
  • Mehlhart, I. Kosińska, Y. Baron and A. Hermann (2017), Assessment of the implementation of Directive 2000/53/EU on end-of-life vehicles (the ELV Directive) with emphasis on the end of life vehicles of unknown whereabouts, European Commission Directorate-General for Environment, https://ec.europa.eu/environment/waste/elv/pdf/ELV_report.pdf, accessed on 18 March 2023.
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