自動車保険の参考純率が平均14.4%引上げ|保険料への影響を解説

損害保険料率算出機構(損保料率機構、理事長・早川眞一郎)は2026年6月23日、自動車保険の参考純率を平均14.4%引き上げる変更届出を、金融庁長官に対して行った。前回(2024年6月届出)の平均+5.7%を大きく上回る引上げ幅である。引上げの最大の要因は、事故そのものの増加ではなく「修理費の上昇」にある。整備・鈑金の現場コストが保険料率にどう跳ね返るのか、改定の中身を整理する。

届出の概要 ― 二つの柱

今回の届出には、大きく二つの内容がある。

  • (1)参考純率の水準を平均14.4%引上げ(2027年1月以降に保険始期を有する契約を想定)
  • (2)運転者の運行特性を保険料に反映する料率区分を新設(安全運転で割引が可能になるしくみ)

届出の内容は、これから金融庁による適合性審査を受ける。審査が終了した段階で、改めて同機構のウェブサイトで公表される予定である。

そもそも「参考純率」とは ― 保険料との関係

解説に入る前に、用語を整理しておく。自動車保険の保険料率は、大きく二つの部分でできている。

  • 純保険料率……事故が起きたときに保険会社が支払う保険金に充てられる部分
  • 付加保険料率……保険会社が事業を行うための経費などに充てられる部分

このうち純保険料率の「参考値」として、損保料率機構が統計に基づき算出し、会員である保険会社に提供しているものが参考純率である。あくまで参考値であり、使用義務はない。各保険会社は、参考純率をそのまま使うことも、自社の収支やリスク実態に応じて修正して使うことも、使わずに独自に算出することもできる。付加保険料率は損保料率機構では算出しておらず、各社が独自に決めている。

つまり、「参考純率が平均14.4%上がる」イコール「契約者の保険料が14.4%上がる」ではない。実際の保険料の改定率や改定の時期は、各保険会社がそれぞれの判断で決める。この点は記事の前提として押さえておきたい。

なぜ引き上げるのか ― 事故は減っているのに保険金は増える

損保料率機構によると、事故率はコロナ禍からの交通量回復に伴って一時増加したが、足元ではいったん落ち着き、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)など先進安全技術の普及を背景に緩やかに減少している。

ところが、対物賠償責任保険と車両保険における1件あたりの支払保険金(保険金単価)は年々上昇しており、事故率の減少を上回るペースで増えている。事故は減っているのに、1件あたりの支払いが増えているために、全体として参考純率の引上げが必要になったという構図である。

支払保険金が膨らむ背景として、同機構は、急激な物価上昇、高性能部品の普及による部品の高額化、工賃単価の上昇、修理期間の長期化による間接損害(代車料等)の増加を挙げている。いずれも整備・鈑金の現場に直結するコスト要因である。

対物賠償責任保険を例にとった費目別修理費の推移は、次のとおり(同機構資料、単位=千円/年度)。

年度 部品費 工賃 塗装費 間接損害 合計
2022 155 64 53 63 336
2023 163 68 56 72 358(+6.7%)
2024 174 73 60 79 386(+7.6%)

すべての費目がそろって上昇していることがわかる。

上昇の主因は「工賃」 ― 整備業界のコストが映る

注目したいのは、保険金単価の上昇に対する要因の寄与率である。損保料率機構の分析(対物賠償責任保険の例)では、内訳はおおむね次のとおりとされる。

  • 工賃単価の上昇 …… 40%程度
  • 物価上昇・高性能部品の普及等 …… 35%程度
  • その他(代車料等の間接損害) …… 25%程度

最も大きな寄与が「工賃単価の上昇」である点は、整備業界にとって示唆に富む。これまで部品の高額化が値上げ要因として語られることが多かったが、足元では工賃や間接損害(代車料)も無視できない押し上げ要因となっている。整備・鈑金の人件費や作業工数、修理期間の長期化といった現場の実態が、保険料率の世界にはっきりと反映され始めたといえる。

部品別の修理費見積りの足元の動向(コグニビジョン社「cogniSEVEN+」による対物賠償責任保険の修理見積りデータ。2025年3月→2026年3月の代表値と増加率)も、工賃の伸びが部品費の伸びに引けを取らないことを示している。

損傷部品 部品費(千円) 工賃(千円)
ヘッドランプユニット(左) 70→81(+17%) 3→4(+11%)
フロントバンパ 53→58(+10%) 11→13(+16%)
バックドアパネル 55→59(+7%) 14→16(+13%)
リヤバンパ 47→50(+6%) 6→7(+16%)
ラジエータグリル 27→29(+8%) 2.6→3.0(+16%)

いずれの部品でも、工賃の上昇率が二桁に達している点が共通している。

契約タイプ別の改定率 ― 平均14.4%との差

損保料率機構が示した代表的な契約例の改定率は、次のとおり。いずれも自家用、使用地域が沖縄県以外、ノンフリート20等級などを前提とした例である。

契約例 用途・車種 改定率
対人・対物・人身傷害・車両保険のセット契約 自家用普通乗用車・自家用小型乗用車 +17.2%
自家用軽四輪乗用車 +17.5%
上記から車両保険を除いたセット契約 自家用普通乗用車・自家用小型乗用車 +16.4%
自家用軽四輪乗用車 +15.8%

平均14.4%よりも個別の契約例の改定率が高くなっているのは、14.4%があくまで沖縄県以外のセット契約・全契約条件の平均値だからである。用途・車種や補償内容など、契約条件ごとに改定率は異なる。今回の届出では、この水準の見直しに加えて、既存の料率区分内の較差(割増引率等)も直近のリスク実態に基づいて見直されている。

新設「運行特性区分」 ― 安全運転で割引

もう一つの柱が、運転者の運行特性を保険料に反映する料率区分の新設である。ドライブレコーダー等の普及によって、急加速・急減速といった運転の特性をデータで把握できるようになった。同機構が走行データと保険データを組み合わせて分析した結果、急加速・急減速が少ないほど事故リスクが低いことがわかったという。

新設される区分は1~3の3区分で、「1」が最もリスクが低く保険料が安い。車載のドライブレコーダー等で測定した急加速・急減速の頻度に基づいて区分を決め、区分間の較差は10%とされる。安全運転を続けることで保険料が安くなるしくみであり、テレマティクスを使った保険料の個別化が、参考純率の世界にも本格的に入ってきた形だ。なお区分の判定は一定期間の走行状況から総合的に行われ、1回の急操作だけで決まるものではないとされている。

整備業界への影響 ― 何が変わるのか

最後に、参考純率の改定が現場に何をもたらすのかを整理する。

顧客の保険料負担は今後増える方向にある。各社が今回の改定をどう反映するかは各社判断だが、前回2024年6月の参考純率改定(平均+5.7%)は、各社の商品改定案内や報道によれば、2025年秋から2026年1月にかけて大手各社の値上げとして順次反映された。今回はそれを上回る引上げ幅であり、審査終了後、各社の保険料に反映されていくことが見込まれる。車検や事故対応で保険を扱う整備事業者にとっては、修理見積りや等級への影響について顧客へ丁寧に説明する場面が増えそうだ。

修理費の上昇が、保険の側から「正当なコスト」として認識され始めた。工賃単価の上昇が引上げ要因の最大寄与とされたことは、整備・鈑金の作業対価が保険料率に織り込まれ始めたことを意味する。部品の高額化や塗装費に加え、修理期間の長期化に伴う代車料(間接損害)まで含めて評価されている点も、現場の実感に近い。

テレマティクス活用の流れが加速する。運行特性区分の新設は、ドライブレコーダーや車載データを使った保険の個別化を後押しする。安全運転を「見える化」する機器・サービスの需要が高まれば、整備事業者にとっても顧客接点や提案の幅が広がる可能性がある。

参考純率は、保険料そのものではない。だが、その改定の中身を読み解くと、整備・鈑金の現場で起きているコスト上昇が、保険という別の領域にどう映っているのかが見えてくる。今回の届出は、整備業界のコスト構造が社会全体のしくみと地続きであることを、改めて示すものだといえる。

(出典)損害保険料率算出機構「自動車保険参考純率 届出のご案内」(2026年6月23日金融庁長官への届出)。図表の数値は同資料および同資料が引用するコグニビジョン社「cogniSEVEN+」データによる。前回改定(2024年6月届出・平均+5.7%)および各社の反映時期は、同機構公表資料ならびに各社の商品改定案内・報道による。

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