整備工場への「無償運搬」に公取委が勧告 運賃を払えば済む話ではない──緑ナンバー・有償運送許可との関係

整備工場への「無償運搬」に公取委が勧告 運賃を払えば済む話ではない──緑ナンバー・有償運送許可との関係

公正取引委員会は2026年6月4日、ホンダ系ディーラーの株式会社ホンダ茨城南(茨城県つくば市)に対し、下請法(現・中小受託取引適正化法=取適法)違反で勧告を行った。板金塗装や点検整備を委託していた整備事業者15社に、車両1,014台の引取り・引渡しを無償で行わせていたというものだ。

この勧告は整備業界にとって他人事ではない。委託元のディーラーが運搬費用を負担すべきという点はもちろんだが、本サイトが繰り返し取り上げてきた**有償運送許可制度や緑ナンバー(貨物自動車運送事業)**の問題とも深く関わってくる。「運賃を払えば解決」とは単純に言い切れない論点があるため、整理しておきたい。

公取委、ホンダ茨城南に勧告──1,014台を無償で運搬させる

公取委によると、ホンダ茨城南は2024年9月から2025年9月までの間、自社の顧客から請け負った自動車の板金塗装等(14社)と点検整備等(1社)を整備事業者15社に委託。その際、引取り・引渡しに係る自社の販売店舗と各整備工場との間の運送を行わせたにもかかわらず、運送に要した費用を支払わなかった。対象台数は計1,014台にのぼる。

公取委は同社に対し、

  • 運送させたことによる費用に相当する額を、公取委の確認を得たうえで速やかに支払うこと
  • 今後、中小受託事業者に不当な経済上の利益の提供要請を行わないことなどを取締役会の決議で確認すること
  • 取適法の遵守体制を整備すること

などを勧告した。

トヨタ系・日産系に続く一連の勧告

ディーラーが整備事業者に車両運搬を無償で行わせる行為をめぐっては、公取委は2026年に入ってからトヨタ系(徳島トヨタ自動車)、日産系(日産東京)のディーラーにも相次いで勧告を出している。ホンダ系ディーラーへの勧告は今回が初めてだ。

引取り・納車を整備工場側の無償サービスとして受けてきた取引慣行は、業界全体で見直しを迫られているといえる。

なぜ違反になるのか──「不当な経済上の利益の提供要請」

今回問われたのは、改正前の下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)にあたる行為だ。委託元(親事業者・委託事業者)が自己のために、金銭・役務その他の経済上の利益を無償で提供させ、受託側の利益を不当に害することを禁じるものである。

車両の引取り・引渡しという「運送(役務)」を整備事業者に無償で行わせることは、まさにこの「経済上の利益を無償で提供させる」行為に該当する。なお、2025年改正で下請法は取適法へと改称され(2026年1月施行)、同趣旨の規定は取適法第5条第2項第2号に引き継がれている。今回の行為は改正前に行われたため旧下請法が適用されたが、今後の取引には取適法が適用される。

ここまでは「委託元が運搬費を払えばよい」という話に見える。しかし整備業界の実務に引きつけて考えると、もう一段の注意点が浮かび上がる。

整備業界が注意すべき点──「運賃を払う」と緑ナンバー問題が顔を出す

問題は、運搬の対価を受け取る整備事業者の側が、貨物自動車運送事業の許可(緑ナンバー)を持っていなくてよいのかという点だ。

貨物自動車運送事業法では、「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業」を行うには緑ナンバー(事業用ナンバー)の許可が必要とされる。自家用自動車(白ナンバー)による有償運送は、道路運送法第78条で原則として禁止されている。

ここで運搬の形態を分けて考える必要がある。

① 自走による引取り・納車の場合

対象車が自力走行できる通常の車両で、整備士が運転して工場へ持ち込む(自走で回送する)ケースは、車両を「貨物」として積んで運ぶわけではない。自社が請け負う整備・板金業務に付随する行為と整理されるのが一般的で、運搬費を受け取っても直ちに緑ナンバーが必要になるわけではないと考えられる。今回のホンダ茨城南のケースは、車検・点検整備や板金塗装の引取り・引渡しが中心であり、多くは自走によるものとみられる。

② 積載車で搬送する場合

一方、事故車・故障車のように自力走行できない車両を積載車に積んで運ぶと、車両は「貨物」として運送されることになる。これを有償で行えば、原則として緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業の許可)が必要となる領域に入る。整備工場・鈑金工場がこの許可を受けるためには、最低5台の車両、営業所・車庫、運行管理者・整備管理者の選任、相当額の資金証明など多くの要件をクリアしなければならず、運送を本業としない事業者にとってはハードルが高い。

有償運送許可では「二次運送」はカバーできない

「事故車・故障車なら有償運送許可(道路運送法第78条)があるのでは」と考える方もいるだろう。しかし、この許可でカバーできる範囲は限定的だ。

有償運送許可は、道路上で事故・故障により自力走行できなくなった車両を、二次災害防止や交通渋滞回避のため、現場から最寄りの工場等まで緊急に排除する業務に限って、白ナンバーの積載車による有償運送を例外的に認めるものである。

逆に言えば、整備事業場から別の整備事業場・ディーラー等への有償運送(いわゆる二次運送)は、有償運送許可の対象外とされている。委託元の店舗と整備工場の間で車両を搬送し、その対価を受け取る行為は、まさにこの「二次運送」に近い。有償運送許可を持っていても、この区間の有償搬送には使えないのである。

つまり、勧告を受けて委託元が運搬費を支払う運用に切り替えたとしても、その搬送が積載車によるものであれば、整備事業者側が無許可で貨物自動車運送事業を行っている状態を生みかねない。一つの法令違反(下請法・取適法)を解消する過程で、別の法令(貨物自動車運送事業法)の問題が顔を出すという、二重の注意が必要な構図になっている。

実務上の落としどころ──「緑ナンバー業者に委託」か「自社運送」か

この点を踏まえると、ディーラー(委託元)が積載搬送を伴う車両の引取り・納車を行う際の現実的な対応は、概ね次の二択になると考えられる。

  • 緑ナンバーの運送事業者に委託する:搬送そのものは正規の許可を持つ運送会社に依頼し、整備事業者には整備・板金の本来業務に専念してもらう。委託元が運送費を運送会社へ支払う形であれば、下請法・取適法上も貨物運送事業法上もクリアになる。
  • 委託元が自社で運ぶ:自社で保有する車両により、自社の管理下にある顧客車両を運搬する。下請事業者に運搬を負担させないため、無償提供要請の問題も生じない。

いずれにせよ、「整備工場にタダで取りに来てもらう/届けてもらう」という従来の商慣習は、下請法・取適法の観点からも、貨物自動車運送事業法の観点からも、見直しが避けられない。

まとめ

公取委によるディーラーへの一連の勧告は、整備業界に根づいてきた「引取り・納車は整備工場のサービス」という前提を揺さぶるものだ。委託元が運搬費を支払うのは当然として、整備事業者の側も、自走による回送なのか、積載車による搬送なのかによって、貨物自動車運送事業法上の扱いが変わる点を理解しておきたい。

特に事故車・故障車の二次搬送は、有償運送許可ではカバーできず、有償で行うなら緑ナンバーが必要になる場面がある。自社の業務がどの区分に当たるか判断に迷う場合は、管轄の運輸支局や運送業に詳しい行政書士など専門家に確認することをおすすめする。


※本記事は2026年6月4日付の公正取引委員会の発表資料(勧告書)に基づいています。個別事案における法令の適用は、運搬の形態・頻度・契約関係などにより異なります。具体的な取り扱いは管轄運輸支局等にご確認ください。

広告